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呑気にそんな風に過ごしていた私だけど、木曜日の夜、父からかかってきた電話で現実に引き戻された。
「陽子が家に来ていたんだよ」
「え……お父さん、話をしたの?」
「いや、中に入っては来なかった。悠李くんが設置してくれた防犯カメラの映像を毎晩チェックしているんだけど、昨日の7時頃に門の前でうろうろしているのが映っていた」
「その時間って、もしかして……」
「いつもなら月葉が帰ってくる時間だ」
(嘘……本当にそんなこと)
「月葉」
父が少し強い口調で言う。
「母さんが本当に困っているならお金を渡さなきゃ、なんて絶対に思っちゃいけないよ」
まるで心を読まれたような父の言葉に頷く私。
「困っていたとしてもそれは母さんが自分で何とかするべきことだ。ちゃんとパートもしているし年金もある。陽菜も一緒に暮らしてるんだから、月葉が背負う必要はない」
「うん。わかった。ありがとう、知らせてくれて」
電話を切ったあとため息が出た。母はどうしてそんなにお金を欲しがっているんだろう。でも、お父さんの言う通り、それは私が考えることじゃない。
夜遅く帰ってきた悠李にこのことを話すと同じ意見だった。
「やっぱり防犯カメラ付けておいてよかったよ」
「うん、ていうか悠李いつの間にそんなことしてくれてたの……?」
「月曜日に業者に電話して、お父さんが家にいる時間に手配したんだ。絶対来るだろうと思ってたし」
そして悠李は私の両肩に手を置いて、しっかり目を見て言った。
「月葉、もしかしたらお母さんは会社に来るかもしれない。その時は、わかってるね」
「ええ。きっぱり断る。二人だけで会わない」
「そう。ちゃんと、けりをつけなきゃダメだよ。気持ちを強く持つこと。いいね」
悠李は私をぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「ああ、ホントはもう家の中に閉じ込めて隠しておきたいんだけど。そんな訳にもいかないからなぁ」
「そうね。ずっと隠れて守られていたんじゃ、ダメだから。私自身で母から卒業するわ」
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