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父の決断
その後は長町武家屋敷跡を見て回った。土塀が並び江戸時代の面影が残るレトロな街並みは茶屋街とはまた違う風情がある。名家の屋敷に入館して美しい庭園を眺めていると、まるでタイムスリップしたような感覚に陥る。
「大名の姫の衣装を着た月葉もいいなぁ……」
「じゃあ悠李はちょんまげだね?」
「あっ……」
月代姿の悠李を想像して思わず笑ってしまう。顔が綺麗だからそれも似合いそうで。
悠李は、『それだけは絶対にヤダ』と口をとがらせていたけど。
そして楽しかった旅も終わり、金沢駅に戻ってきた。あちこちでお土産を購入してはいるけど、ラストチャンスということで駅にある『百番街』のお土産フロアにてじっくり品定め。新幹線に乗り込む時には両手に荷物がいっぱいだった。
「楽しかったわ、悠李。本当にありがとう」
「俺のほうこそ。やっと、月葉と一泊旅行するという夢が叶ったよ。次は長期旅行も行きたいな。海外とか」
「そうだね……楽しみ」
実は海外旅行は行ったことがない私。英語も全く話せない。でも悠李とだったらどこへだって安心して行けそうだ。
「あ、そういえばね、悠李。うちの実家のことなんだけど」
「うん? お父さんのこと?」
私は頷く。
父は以前から考えていたことをどうやら実行するようなのだ。それは、住んでいる実家の土地と家を処分すること。
おじいちゃんが亡くなって今はおばあちゃんのものになっているあの場所を売って、駅近くに建設中のバリアフリー低層階マンションに移るつもりなのだ。
「そうか。俺もそれはいい考えだと思うよ。お母さんがまた来ないとも限らないからね。お父さんたちの引っ越しの時は俺も手伝うよ」
「うん……ありがとう」
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