父の決断

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~~~~~    先日会った時に父はこう言っていた。 『陽子に住所を知られているのも落ち着かないし、月葉も帰ってきにくいだろう? もともとこの家もリフォームが必要なくらい古いし、それならいっそ生活しやすいところに移ろうと思ってな』  新しいマンションは病院もスーパーも近い。父が運転できなくなっても祖母の面倒をみられそうな環境なのだという。  そして父は初めて、陽菜についてどう思っているかを私に打ち明けた。 『陽菜には一緒に住んでいる頃からずっと無視されてきた。しかも離婚後は一度も会っていない。今どんな顔をしているのか、どんな風に生きているのかもわからない状態だ。月葉のことは可愛いが、正直に言うと陽菜には同じだけの愛情が持てないんだ。だから父さんが死んだあと遺産相続で揉めないようにちゃんと遺言を書いて公正証書を作っておくから、覚えておいてくれ。あの陽子にそっくりなんだから、絶対に全てを奪おうとしてくるはずだ。それだけはさせない。陽菜には法的な遺留分だけを渡すことにし、残りは全て月葉のものだ』  父は、自分に何かあった時、私が搾取されることを心配してくれている。もちろん父が死ぬなんてそんなこと考えたくもないけど、だからって何もしないのはよくないと父は言う。いつ何が起きて寿命が尽きるかなんて誰にもわからないからと。 『うん……お父さんの決断を尊重するよ。でもおばあちゃんは家を売ることについてはどう言ってるの?』 『それが、すごく乗り気なんだ。親父の思い出があるから売りたくないって言うかと思ったら、『お義母さんにいびられた思い出のほうが残ってて嫌。人生の最後くらいピカピカのマンションに住んでみたい』って言うんだよ』 『おばあちゃん、嫁姑問題で苦労してたんだ……』  知らなかった。私が物心ついた時にはもうひいおばあちゃんはこの世にいなかったから。
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