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悠李の実家へ
父への婚約報告は予想通り、何の問題もなく終わった。
「悠李くんなら月葉を大切にしてくれると信じてるよ」
「もちろんです。大切な娘さんをお預かりするんですから、必ず幸せにします」
「住む所はどうするんだい?」
「今の部屋は少し狭いので、二人暮らし用の部屋を借りようかと。お父さんたちの新居に電車で通いやすいところを探します」
それは助かるよ、と父は嬉しそうだった。免許の返納もいずれ遠くない未来にするつもりなのだそう。
「ところで月葉。会社を変わる予定はないのかい? やっぱり、陽子に場所を知られてるのが心配なんだよ」
「うん、私もそれはずっと考えてた。会社の先輩にも言われたの。一旦引き下がっても、ああいう親は困窮すればまた来るよって。だから転職するつもり。早いうちに今の会社は辞めるわ」
「僕も転職を勧めたんです。何と言っても待ち伏せが怖いので。24時間月葉さんを守ることはできないから……」
私の転職が決まり父が引越しをすれば、母は私たちを追跡することはできなくなる。やっと、母と完全に別れることができるのだ。
「それから月葉、英姓を受け継ぐ必要はないぞ。墓だってちゃんと屋内型永代供養のマンション墓を購入してあるから墓守の必要もない。お前たちは自分の好きなように生きてくれればそれでいい」
「わかった……よく考えて決めるね」
そして次の土曜日。私たちは今度は悠李の実家を訪れた。
中学校が同じなのだから、この地域は私も馴染みの場所。高二で引っ越すまでは近くの町に住んでいたのだ。あれから11年、あまり街並みは変わっていないけれど新しいお家や無くなったお店があって時の流れを感じる。
「めっちゃ久しぶり。歩くだけでなんだか緊張する……」
「実は俺もほとんど帰ってないから久しぶりなんだ」
「そうなの……? お正月とかどうしてたの?」
「いつものマンションで過ごしてたよ。実家帰っても、彼女はいないのか、結婚はまだなのかってうるさいから」
「そうなんだ……」
「あのさ、うちの親、悪い人ではないけれどデリカシーはないほうだと思う。だから俺はあまり顔を合わさないし、月葉にもあんまり付き合わせるつもりはないんだ。だから今日は本当に報告だけ。結婚式もさ、先週話したように写真だけにするんだし」
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そう、先週の父への報告の時に結婚式をどうするかという話も少しした。その中でお互いに結婚式というものに重きを置いてないことがわかり、写真だけ撮る方向になったのだ。
『月葉、写真はドレスだけじゃなくて着物も撮ってね。おばあちゃん、月葉の白無垢が見たいのよ』
『もちろんよ。衣装選ぶ時はおばあちゃんも一緒に来てね』
そう話すと祖母は嬉しそうに笑っていた。
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