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「着いたよ、月葉」
悠李の家はごく普通の一軒家。道路側には木が植えてあり、玄関前には鉢植えの花。古い自転車が二台置いてあるのは、どちらかが悠李のものだったのかも。
「じゃあ、行くよ」
「うん」
チャイムを鳴らし玄関に入ると、元気なお母さんと物静かなお父さんが出迎えてくれた。
「まあまあ、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
「初めまして。英月葉です」
自己紹介をした時、一瞬、間が空いた気がした。
「まあぁ、月葉さんていうの。可愛いお名前ね。ささ、どうぞ上がって」
「はい。お邪魔します」
そのまま、リビングに通された。
「応接間なんてないから、リビングでごめんなさいねえ」
コーヒーとお茶菓子を出されたあと、悠李が切り出した。
「こちら、英月葉さん。年は同じ28歳。俺たち、結婚しようと思ってるからその報告にきたんだ」
「やだわー、本当に良かった。おめでとうゆうちゃん! お母さん心配してたのよ~。ねえ月葉さん、この子ったら一度も彼女できたこともないし作ろうともしないし。もしかしてボーイズラブなのかと思ったりしてたのよ~」
こっそりと悠李が耳打ちする。
「……な? 今時、デリカシーないだろ」
なんと答えていいかわからず、笑ってごまかした。
「ところで二人はどこで出会ったの? 馴れ初めは?」
「中学校の同級生だよ」
するとお母さんの動きがピタッと止まった。
「同級生って……第二中の?」
「そう。中三で同じクラスだった」
お母さんはあら……と明らかにテンションが下がっていく。
「やっぱり……英って珍しい苗字だものねえ……あのお母さんと親戚になるのね……う~ん……」
(……そうよね……同級生だったんだもの、母のことを覚えていてもおかしくない……きっと学校でも傍若無人に振る舞っていたに違いないわ)
「母さん。そういう、思ったことをすぐ口や態度にだすのは母さんの悪いところだよ。月葉と、月葉の母親は別の人間だ。一緒にしないでくれ」
悠李が少し怒った口調で言う。
「あっ、ごめんね、ゆうちゃん。月葉さんもごめんなさい。私、昔からデリカシーが無いってこの子によく怒られるのよ」
「あ、いえそんな……」
「そうよね。月葉さんはお母さんとは別のタイプみたいだし大丈夫よね、お父さん」
「いや、俺は……そのお母さんがどんな人か知らないし……」
お父さんもお母さんも困ってる。私が母と縁を切っていること、言わなくちゃ安心してもらえないだろう。
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