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「あの……」
口を開いた私を悠李が止めた。
「俺が言うよ。月葉にとってはしんどい話だろう」
悠李は私のことを思ってそう言ってくれている。でも、これは私の家族の問題なのだから自分の言葉でちゃんと説明しなくては。
「大丈夫よ、悠李。私が話すわ」
「月葉……」
私はご両親の目を見ながら話し始めた。高二の時に両親が離婚し、母や姉とは離れて暮らすようになったこと。今後一切会わないと決めているから親戚付き合いはしなくていいことを告げるとお母さんは安心したように見えたが、まだ心配そうにおずおずと問いかけてきた。
「それでも、結婚式には呼ぶ……わよね?」
悠李は首を振りきっぱりと告げる。
「結婚式はやらないから、その心配はない」
「え! 結婚式しないの?」
お母さんは心底びっくりした声を出した。
「だってゆうちゃん、こんなに可愛らしいお嬢さんなのに結婚式しないって……もったいないわ。お母さんは呼ばないとしても、他のみんなにお披露目したくないの?」
可愛らしい、って言ってもらったことがちょっと嬉しい。悠李のお母さんはきっと思ってもないことは言わないんだろうから。
「写真だけは撮るよ。親戚にはそれを見せといてくれればいいから」
「月葉さん、あなたはそれでホントにいいの? 遠慮、してない?」
「大丈夫です。私が、先に写真だけにしようって言ったんですよ」
「そうなの……まあ二人がそう言うなら……」
お母さんは渋々ながら納得してくれた。
その後は仕事の話や私たちの新居の話などで和やかな時間が流れていった。夕飯食べて行く? と言ってくれたけど悠李は断り、私たちは帰ることにした。
「明日も早いからまた今度にするよ。籍を入れたら連絡するから」
「ゆうちゃん、じゃあ籍を入れたら一度、お兄ちゃん夫婦も一緒にご飯でも食べに行こ。ね、月葉さん、どうかしら」
「……はい、ぜひ!」
悠李の実家をおいとまして駅まで歩き、電車に乗る。そこまできてやっと、ホッと息をついた。
「ごめんな、月葉。疲れただろ」
「ううん、大丈夫。緊張が解けただけ。それよりお母さん、しっかりうちの母のこと覚えてたわね」
「そうだなぁ。うちの母親、共働きだったしあんまり学校に顔出してなかったから覚えてないかもと思ってたんだけど」
「……悪い意味で有名だったんでしょうね、保護者の間で。でも結婚、許してもらえてよかった」
悠李の顔を見上げて笑うと、悠李も笑った。
「許してもらわなくても俺は月葉と結婚するよ。まあでも、できるなら祝福された方がいいよね」
父と祖母、そして悠李のご両親。この人たちに認めてもらって祝福されれば十分だ。もし母と姉がいたら、またあれこれ貶され罵倒されて破談に追い込まれていただろう。
「悠李、幸せになろうね」
電車のドア近くに立っている私を後ろから包み込むように抱いた悠李。窓に反射するお互いの顔を見ながら誓い合った。
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