鬼ノ部三部 其ノ壱 運命を覆すため我は禁忌の扉を開く

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一. ハヅキとホヅミ 鬼の男の子ハヅキと人の女の子ホヅミは幼い頃から仲が良かった。本当に幼い頃からの仲なので、出会った切っ掛けも、仲良くなった理由も、もうぼんやりとして分からない。  神々が創った人の子と亜人の中でも神々の遠縁とも云われる鬼の子、仲が悪い理由もなかったがハヅキとホヅミはひと際仲が良かった。まるで同じ胎から生まれたかのように、とは彼らの両親の言葉だった。  緩やかな共同体でも困ることが無いせいか、集落はなんとなく同じ種族でまとまっているがお互いの交流はそれなりにあった。集落が種族ごとに分かれている理由は不仲からではなく、種族によって夜行性だったり、水辺が良いだとか山の中が良いだのという理由だったりで、(ひとえ)に身体的特性によるものだ。 「ホヅミ、起きてるか?」 夜が明けて、しばらくすると鬼の集落からハヅキがやってくる。いつもの日課だ。  身体能力が高く丈夫な体を持つ鬼族は狩猟が得意なこともあって森や山岳地帯に集落を持っている。対して人族は、採取をメインに簡単な農業を営むことから平地を好んで暮らしていた。  ハヅキの一族は鬼族の中でも狩猟スキルが高いこともあり、山岳地帯に居を構えている。ハヅキの一番の友人は人族のホズミなので、毎日山を下りて平地の集落にまで遊びに来ていた。実り豊かな世界だからこそ、ハヅキやホヅミのような幼い子供は労働に従事することなく遊んで過ごすことができる。 「ん、起きてるよ。」 朝食と身支度を済ませたホヅミが、おずおずと顔を出す。 大人しく引っ込み思案な人族のホヅミと、やんちゃな鬼族のハヅキには接点が見当たらないのによく仲良くなったものだ。と、大人たちは考えている。考えてはいるが、仲が良いのなら問題はないと、放っておいているのが現状だ。 「今日は何したい?」 ホヅミが顔を見せると同時に、ハヅキはいつものように声をかける。  仲良くなりたての頃、大人しいホヅミが何も言わないことを良いことに、ハヅキは自身の興味の赴くままに連れまわした。鬼族と人族では体力も運動能力も段違いだということを、知ってはいても理解していなかったハヅキは、ホヅミが倒れて初めてそれを思い知らされた。一時、大人たちは騒然としたが子供同士のことで危害を加えるつもりではなかったこと、ハヅキがとても反省しているのでその場は注意されただけで終わった。それからは、ホヅミに必ずどうしたいかだとか体調はどうなのかを確認するようにしたのだ。 「ん? 今日はねぇ… きれいなお花が欲しいなって。」 「花?」 「うん、お花。お隣のお姉さんがね、結婚? するんだって。おめでとうってしたいの。」 うふふ、とホヅミは頬を染めて笑う。 「ふうん? けっこん?」 「そうそう。きれいなお花、何がいいかなあ?」 「そう言えば、あっちの川の近くの広場にいっぱい咲いてたよな?」 腕を組んで考え込んだハヅキが、ホヅミに提案する。 「じゃあ、行ってみる。」 こくりとホヅミが頷ずくと、ハヅキは彼女の手を取って歩き出した。 「なあ、けっこんってなんだ?」 しばらく歩いてから、ハヅキはこっそりホヅミに聞いた。 「んん? 結婚って大人の人が家族になりましょうってお約束すること?」 ホヅミは首を傾げながら答えた。夫婦、っていうのになると新しい家族になるみたいだよ。と、続ける。  ふうん、とハヅキは答えた。そのまま黙々と歩く姿に、何か考えてるのかな? とホヅミは彼の横顔を見ていた。 「あのさ、けっこんしたら、おれとホヅミは家族になれるのか?」 急に立ち止まって、妙に真剣な顔をしているなとホヅミが思っていると、ハヅキはそう尋ねてきた。 「ん~? そうなんじゃないかな?」 「じゃあさ、ホヅミ、おれとけっこんしよう!」 「大人じゃないと結婚できないって言ってたよ?」 「ん! 大人になったら!」 「分かったぁ。」 二人きりで、秘密の約束して、悪戯が成功した時のように笑い合った。
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