1人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
鬼ノ部三部 其ノ参 崩れ落ちた世界秩序のその先のために
序.忘却の気配
記憶の中から、何かが消えた。
ような気がしてイブキは首を傾げた。忘れた、と言うには少し不自然な気がする。記憶の一部を綺麗に切り落とされたような、そんな感じがする。
釈然としないまま周囲を見回すと、他の鬼たちも首を傾げたり視線を宙に浮かせて考え込んだりしている。
「みんな、聞いてくれ。」
鬼たちが訳も分からず半ば呆然としていると、集落の中央にある長老の館から出てきた鬼が声を張り上げた。
思考を止めて、イブキはそちらに向かう。他の鬼たちも騒めきながらも視線を向けたり、イブキのように近付いて行ったりしている。
注目が集まったのを確認して、長老の館から出てきた鬼、ミサキが口を開く。
「先ほど、忘却の呪いが発現したようだ。」
「発現したようだ、と言うのは?」
「忘却の呪い故、詳細が分からぬ。いったい何を忘れたのか…」
ミサキの言葉に鬼たちは口々に違和感を話し出す。
「確かに寿命が短くなるだとか、蠱毒なんかの呪いであればすぐに判るが…」
「忘却ではな…」
「しかし、忘れてしまったことが重要な内容の場合どうしたものか。」
「そもそも、この呪いは誰が?」
取り留めもなく思い付いたことを口にするだけでは埒があかないとイブキは考え、元凶から探った方が良いのではないかと提案した。
「確かに、言われてみれば…」
一同イブキの提案に納得し、自然にミサキへと視線が集まる。
「…おそらく、三代目の魔王の仕業でしょう。」
最初のコメントを投稿しよう!