SNSでバズりたくて心霊スポットに行った話

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SNSでバズりたくて心霊スポットに行った話

 あれは私が高校生の時のことですから、もう十年近くも前の話になりますね。当時既に私はエッセイ漫画を描いていたのですが、あの頃はいくらSNSにアップロードしても、私が描いたものを見てくれる人なんてほとんどいませんでした。  まあ、無理もない話かと思います。エッセイというのは自分の実体験を描くものですが、当時の私の生活ときたら、ひどく単調なものでしたから。  私が住んでいたのは、隣の家を訪問するのも一苦労なほど人口密度の低い田舎の村で、現実世界には人生に刺激を与えるものなんて何もありませんでした。少なくとも、当時の私はそう思っていました。  今の私であれば、それならそれで、寂れた田舎特有の何かを探しては都会住まいの人には描けないようなものを描くでしょうね。でも残念ながら、高校生の頃の私は、そこまで頭がまわらなかったのです。  いっしょに暮らしていたのは、小学生の弟と、母方の祖母の二人です。べつに、幼くして両親に先立たれた悲劇の少女だったというわけではありません。そんなドラマチックな人生を送っていれば、それこそ漫画のネタになったというものですが、現実はもっと退屈です。ただ単に、二人とも仕事が忙しくて子供にあまり構っていられなかった上に、転勤により双方の勤務地が遠く離れてしまったので、祖母のもとに預けられることになったというだけでした。  両親は、「自然が豊かなところで伸び伸びと育って欲しい」とか「お祖母ちゃんの家なら、お父さんが住む所とお母さんが住む所のちょうど間にあるから、二人とも会いに来やすい」などと言っていましたが、あんなのはただの建前でしょうね。だって、二人ともろくに会いになんて来ませんでしたし。  似たもの夫婦というべきか、両親は二人揃って、ワークライフバランスなど気にせず出世街道を駆け上がることに重きを置く人達だったので、子供の面倒を見るなんて貧乏くじを自分が引くのはごめんだと双方が考えた結果、祖母に預けるというお互いの利害が一致する結論に至ったと、まあそういうことでしょう。  ああ、恨みがましく聞こえましたか? だとしたら、それはあなたの勘違いですよ。私の方も、べつに両親に会いにきて欲しいだなんて、さらさら思っていませんでしたから。いつもピリピリしていた父や母よりも、祖母といっしょに暮らす方がよほど気楽でしたし。祖母は耳が遠くなっていたものの頭も足腰もしっかりしていて、特に面倒をかけられるようなこともありませんでしたしね。  ただ、弟の方は、私とは違ったみたいですね。両親から事実上厄介払いされたことがショックだったみたいで、元々あまり喋らない子だったのが、ますます無口になってしまいました。  私はといえば、両親よりもむしろそんな弟の方にこそ不満がありましたね。  ほら、エッセイ漫画の世界だと、育児って一大人気コンテンツじゃないですか? 大人だったら普通やらない突飛な行動とか愉快な勘違いとかも子供ならしてくれますし、それが大人だったら眉をひそめられるようなものだったとしても子供なら微笑ましいものとして見てもらえます。いや、本当に子供というのは、素晴らしいコンテンツですよ。この前一人減ってしまったことについては私も本当に残念に思っていて……おっと、話が脱線してしまいましたね。今は弟の話をしていたんでした。  当時の私は、育児がエッセイ漫画の世界では人気コンテンツであることには既に気づいていましたが、世の大半の高校生がそうであるように、子供なんて持ってはいませんでした。でも、年の離れた弟がその代わりになってくれるんじゃないかと、そう思ったわけですね。  ところが、これが全然だめ。とにかく陰気で無口で、漫画のネタになるような子供ならではの発言とか行動とかを何もしてくれなかったんですよ。  何も無い田舎だから外に出ても特に娯楽が無いというのもあるんでしょうけど、部屋に引き籠って本を読んでいるばかりでしたね。  えっ、どうせ読者には分からないんだから活動的で愉快な弟ってことにして話をでっちあげれば良いだろうって?  とんでもないこと言いますねぇ、あなた。  そりゃ私だって、世の中にはでっちあげた話をさも実話のように騙るエッセイ漫画家もたくさんいるってことくらいは知ってますよ。でも、こんなこと言ったら同業者をたくさん敵にまわしてしまうかもしれませんけど、まったくの虚構をまるで実話であるかのように描くのはモラルの無いことだと私は思いますね。  内容がフィクションの漫画を描くこと自体は何も悪くないですけど、それなら最初から実話を装ったりせずに描けば良いんですよ。本当はフィクションなのに実話を描いたエッセイ漫画のふりをするというのは、フィクションの土俵では戦えないからそうしているという姑息な感じがして私は嫌ですね。  私だって身バレを避けるために多少のフェイクを混ぜるくらいのことはしてますけど、まるっきり嘘の出来事を描くなんてことはやったことはありません。ええ、最近描いてSNSに上げたものも、基本的には全部実際にあったことですよ。  おっと、また話が脱線してしまいましたね。  まあ、そんなわけで、当時の私はエッセイ漫画のネタに飢えていました。だから、村では数少ない同年代の友人から廃神社に出る幽霊の話を聞いた時、これはネタにできるのではと飛びついてしまったのです。
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