SNSでバズりたくて心霊スポットに行った話

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 その神社は、神主の家系はもう随分と昔に途絶えてしまったそうですが、それでもしばらくは地元の人達が参拝や社殿の手入れを続けていて、子供達の遊び場にもなっていたそうです。  しかしある時、そこで遊んでいた子供の一人が石段で足を滑らせて転落してしまいました。子供は即死だったそうです。頭からどくどくと血を流して石段の下に横たわる子供の死体を大勢の人達……まあ大勢と言っても村の人口から考えればですが、とにかく大勢の人達が見てしまったらしく、それ以来、気味悪く思われたのか訪れる人の数もめっきり少なくなったそうです。子供が死ぬような神社に参拝しても、神の御加護があるとは思えないでしょうしね。  やがてその神社はどんどん荒れ果てていき、そのうち、子供達の間でこんな噂が流れるようになったそうです。  曰く、あの廃神社には、血を被ったように真っ赤な頭をした、子供くらいの背丈の霊が出る。  その霊の正体は石段で転落死した子供だと言う人もいれば、そうではなく、あれは荒れ果てるまで社殿を放置されたことで祟り神に変じてしまった神社の神霊なのだと語る人もいたようです。  今ではその噂を知る人も少なくなり、村の子供の数が減ったこともあってその廃神社は肝試しスポットにすらなっていないということでしたが、私は俄然興味が湧きました。  といっても、べつに本当に何かが出ると思ったわけではありません。現実世界というのはつまらないもので、怪談のように怖いことなどそうそうは起こらないと私は理解していましたから。それでも、心霊スポットに行ってみたというだけでも漫画のネタになると思いました。  廃神社には、弟も連れて行くことにしました。面白味の無い陰気な弟ですが、なにせ気弱なので、心霊スポットに連れて行けば怖がって漫画映えする反応をしてくれるかもしれないと思ったからです。  冷え込みの厳しい冬の日ということもあってか、最初はいっしょに来いと言っても嫌がった弟でしたが、私が重ねて強く言うと渋々従いました。どうせ私に逆らう度胸など無いのだから最初からおとなしく言うことを聞いていれば良いものを……と腹立たしく思ったのを、今でも覚えています。  学校から帰宅した後に向かったので、廃神社に着いた時にはすっかり夕方になっていました。  真っ赤な夕日に照らされたぼろぼろの社殿を、これは確かに不気味だなと思いながら観察していた私は、妙なものがあることに気がつきました。社殿同様に朽ちた賽銭箱、その上面の格子の上に一輪挿しが置いてあり、そこにはつい先ほど摘んだばかりのような瑞々しい花が活けられてあったのです。  ――枯れていないところを見ると、この花は最近ここに置かれたのだろうか。  私はまずそう考えましたが、すぐに造花かもしれないということに思い当たりました。しかし私は当時から視力があまり良くなかったため、よくできた造花だと見ただけでは本物の花と判別をつけることができません。そこで触って確かめようと手を伸ばしたところ、花に触れる寸前で弟にその手を強く掴まれました。 「やめようよ……。それ、なんか嫌な感じがする」  私は、普段気弱な弟が私の行動に口出ししてきたことに腹が立ち、その手を力任せに振り払いました。  直後、なにか硬いものが手に当たる感触がありました。同時に私の目は、視界の端で、バランスを崩して倒れていく一輪挿しを捉えていました。振り払った拍子に、手をぶつけてしまっていたのです。  そもそも、賽銭箱の格子の上などというのは花瓶を置くのに適した場所ではありません。一輪挿しは、あっ、と言う間もなく倒れ、音をたてて砕け散りました。そしてその破片と、それから活けてあった花も、そのまま格子の隙間から朽ちた賽銭箱の中へと消えていったのです。  私は、思わずカッとなって弟を怒鳴りつけました。 「なんてことしてくれたの!? これ、あんたのせいだから。全部あんたが悪いんだからね!」  ここに一輪挿しを置いていたのが今も信仰心をもってこの神社に通っている人なのか、それともここで命を落としたという子供の遺族や友人なのかは分かりません。しかしいずれにせよ、一輪挿しを割ったことがバレると面倒なことになるのは容易に想像がつきます。  私は、早々に廃神社を立ち去ることにしました。  帰り道は、弟に対する苛立ちとこんな馬鹿連れて来なきゃ良かったという後悔で頭がいっぱいでしたが、家に着くころにはそれも収まっていました。これはこれで漫画のネタにできるなと思ったからです。  荒れ果てた廃神社になぜか飾られていた一輪挿し。  そこに活けられていた、まだ新しくきれいな花。  触れようとすると、一輪挿しは割れ、その破片と活けてあった花は吸い込まれるように朽ちた賽銭箱の中へと消えていった……。  ほら、いかにも怪談っぽいじゃないですか。これで「嫌な感じがする」と語った弟が霊感持ちとかだったら、なお良かったんですけどね。  この時も私は、これが原因で祟りがあるなんてことはまったく考えていませんでした。確かにここまでの流れだけなら、怪談でありがちなパターンです。でも、怪談と現実は違います。現実には怖いことなんて、そうそうあるはずがないのです。  そんな風に考えていたのを、今でも覚えています。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!