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「お腹すいたよー」
腹ペコの彼はそんなことを言いました。探しても探しても食べ物がないのです。
「ねえ、どこかで見なかったかな?」
「さあねえ、知らないね」
「どこかに食べ物ない?」
「見てないな」
食べ物を探しても探しても見つかりません。このままずっとお腹を空かせていなければいけないのでしょうか。それが悲しくて、涙が溢れてきます。
「どうしたのですか?」
とてもきれいな女の人が話しかけてきました。キラキラと輝いていて女神様に違いありません。
「お腹がすいたんです。でも食べるものがどこにもないんです」
話している時もぐうっとお腹が鳴ります。ガリガリに痩せていて、フラフラしています。その姿に彼女は悲しそうな顔をしました。
「かわいそうに。私が食べ物を持ってきてあげましょう」
「本当ですか。でも僕、夢しか食べられないんですんです」
「ゆめ」
「はい。でも最近人は夢を見なくなってしまったから。僕は食べ過ぎてしまったのでしょうか」
しょんぼりとする彼は悲しそうです。
「どうして人は夢を見なくなってしまったのでしょう」
「生活が豊かになって。夢を見なくても幸せな生き方ができるからかもしれません」
「そっか。良い事なんですね」
「そうですね。でも困りましたね、このままではあなたはずっと腹ペコのままです」
優しい女性は彼のために涙を流してくれました。彼はそれがとても嬉しくなりました。
「ありがとうございます。もう少しだけ夢を探してみます」
この辺はもう探し尽くしてしまいました。夢なんてもうどこにもない事はわかっているのです。その健気な心に。いじらしさに彼女は胸を打たれたようでした。
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