8人が本棚に入れています
本棚に追加
「私が人々に夢を見せてあげるというのはどうでしょう?」
やはり彼女は神様のようです。何かすごい力を持っていて願いを叶えてくれるみたいです。
「本当ですか? 嬉しい、ありがとうございます。あの、一回だけわがままを言っていいですか?」
「あなたは今までじゅうぶん頑張っていますから、我儘ではなく素敵な願いですよ。何でしょうか」
「僕、一度でいいからお腹いっぱいまで夢を食べてみたいんです」
それは彼がずっと抱き続けていた願いでした。夢は夢でもすべての夢を食べられるわけではありません。これも違う、あれも違うと自分が食べられる夢を探して歩き続けるのはいつも不安でした。
食べ物が見つからなかったらどうしよう、次に食べ物にありつけるのはいつだろうか。
一度でいいから思いっきり。探さなくても見渡せばそこら中に夢が溢れているくらいに、食べ物で埋もれてしまうくらいに。それを話すと彼女はにっこりと笑いました。
「わかりました。あなたがしばらく食べ物に困らないように。人々にはたくさん夢を見てもらいましょう」
「わあ、ありがとうございます」
彼は目をキラキラさせて喜びました。そして、それが叶うまで少し休みますと言って大きな木の下にコロンと横になりました。
すぐにスウスウと寝息が聞こえます。どうやらとても疲れていたようです。彼女は、起こさないようにそっと歩き出しました。
「困ったわ。どんな夢が食べたいのか聞くのを忘れちゃった。起こすのは可哀想だし、どうしようかしら」
「どうしたの?」
通りかかった彼女の友人が不思議そうに聞いてくるので、彼女はさっきあったことを話しました。
「夢を食べる? あー、あの子ね。知ってるよ」
「あの子どんな夢を食べるか知ってる?」
「あの子は獏だから、悪夢だよ」
友人の言葉に彼女はホッとしました。思い違いをしていたからです。
「ああ、夢ってそっちの夢だったのね。危うく希望や理想の方の夢を与えるところだった」
こうして彼女は、間違いなく獏の夢を叶えましたとさ。
めでたし、めでたし。
え? めでたしでしょう?
その証拠に人類はちゃんと、寝ても覚めても悪夢にうなされているじゃないですか。
最初のコメントを投稿しよう!