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不思議な力
「ねぇ、星祈ってなんでそんなにスターライトのレッド、花内 悠真推しなの?やっぱり顔がイケメンで王子様系だから?」
同じクラスで隣の席の親友、朱莉がため息を零しながら言った。
ショートカットに編み込まれた朱莉は、流行りモノが大好きなミーハー女子だが、同じクラスにいる王子様顔の男を指差して苦笑してみせた。
指差した先には、男子女子からも圧倒的に人気を誇るクラスのリーダー、花内 悠真がいた。
煌びやかな細毛の金髪に、優等生で爽やか笑顔がよく似合う180センチの男子生徒。
スポーツ万能で、成績も優秀な文武両道男子。
青い瞳に煌めく星は、微笑むたびに女子のハートに突き刺さった。
「違うよ!だって、あんなに綺麗な容姿なのに、悪の組織に立ち向かう度胸もあって、強いんだよ?!
それに、2年前に両親と私を助けてくれた命の恩人だし、それに」
頬を両手で包み、クネクネと身を捩らせて瞳を輝かせた。
「癒しのキスを施されたんだっけね」
朱莉はうんざりしたかのように吐くように呟いた。
「癒しのキスでもなんでも、あの時は確かにキスされたんだもん」
「14歳の初キッスが癒しのキスだなんてねぇ。
あれはただの救出だったのに、ほんと花内 悠真、女タラシだわぁ」
そんなこと言わないでよぉー!と朱莉の頬を突き、むぅと唇を尖らせた。
この世界にある日、『スターダスト』と呼ばれる悪の組織がやって来た。
神出鬼没に現れては街中をめちゃくちゃにし、世界征服を目論む組織は、一般市民へ容赦なく手を下した。
いつ何時にやって来るかわからない悪の組織、スターダストに対抗して生まれ落ちた正義のヒーロー『スターライト』は、5人組で編成されている。
軍事組織から成り立っているかと噂されているが、どうやら違うらしい。
スターダストは未知な魔物を操り、時には人を怪人に仕立てあげ、一般市民を恐怖に叩き落とすけれど、スターライトは不思議な力で私たちを守り救ってくれる存在だ。
私を救ってくれた赤いタイツ姿の1人は、5人グループのリーダー、シリウス。
そして、我が高等学校で同じクラスの花内 悠真だった。
スターダスト同様、スターライトも不思議な力を持つ組織だ。
人間離れした力や魔法のような力。
その不思議な力の一つ、『癒しのキス』。
リーダーだけが持つその癒しのキスの不思議な力は、キスした相手の体調や体力を回復させてくれるもの。
2年前のあの時、私は彼の癒しのキスによって回復した。
父も母も彼の癒しのキスによって一命を取り留めたのだ。
だから、2年前にシリウスからされたキスは愛だの恋だのというものでないことは充分に理解している。
そして感謝もしている。
ただ、たった1人で3人を担いで助け出してくれた。
彼に恋をせずにいられただろうか。
窮地に助けられ、キスで命すら救ってくれた彼に、恋に落ちるには十分すぎただろう。
あの時、彼の表情は赤い仮面によって見えなかったけれど、あの優しく微笑んだ口元は今も忘れられない。
クラスの中心で戯れあっている花内 悠真の煌びやかな笑顔を見るたびに、胸の奥がキュンとした。
はぁ、今日もシリウス様が尊い♡
好き、大好き、愛してるーー!!!
「っていう顔してるのがバレバレ。
てか、早く告白してフラれればいいのに」
「朱莉ちゃん?!なんてこというの!」
シレッと毒を吐く朱莉ちゃんはミルクティーを片手に「そういえばさー」と話の流れを変えようとする。
「“癒しのキス”って、重症者には効くけど、普通の怪我には対応しないんだって。不思議だよね」
「え、そうなの?」
「そ。だから、死にかけてる人にしか施されないらしいよ。まぁ、切り傷程度でキスしまくってる正義のヒーローも見たくないけどさ」
確かに。
なんて納得していると、朱莉ちゃんは更に言葉を続けた。
「しかも、特に異常の無い人にキスすると“催淫効果”が出るらしくて、キスされた人はめっちゃ盛るっていう噂も」
「なにそれ?!!どゆこと?!」
「さぁ?花内 悠真も普通の男子高校生ってことじゃん?女の子とけっこーヤンチャしてるって聞くよ」
あんなのがいいの?と朱莉ちゃんは口元を緩めていうから、怯んでしまう。
「そ、それでも・・・好きなんだもん」
私を救ってくれた。
ただ、それだけで私は心も体も命も救われてるんだ。
彼を見るたびに、ときめいてしまうのは、間違っているのかな。
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