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平和な日常は一変し、突如窮地へ追いやられる。
雨季、雨が1ヶ月間降り続き川の氾濫のニュースが相次ぐ中で、土砂崩れの報道がされた。
高校からそう離れていない地区は、山側で大規模な土砂崩れが起き、クラスメイトの家が巻き込まれた。
自宅から20分の所のクラスメイトの家は、土砂にまみれて家の原型を留めておらず、人がここに埋まっているだなんて想像が出来ない惨状だった。
カッパを着て助けに来たのに、目の前の膨大な土砂の量に怖気付いている私がいる。
「生きてるのか、コレ」
避難区域に指定されていたが、絶対に“スターライト”が来るだろうという下心もあった。
でも、目の前の惨劇を目の当たりにしてそんな下心など頭の中から消し飛んだ。
誰かがぼやいた言葉など無視して、消防団の人たちと混じって土を掘り起こしていた時だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!
地鳴りのような音と共に地が揺れた。
「川の水が濁ってる!!!!鉄砲水だ!!逃げろ!!!!」
消防団でも偉そうなおじさんが叫んでいた。
ぬかるんだ地面からは剥き出しの鉄骨や岩、瓦礫があって走ることなど困難を極めている。
でも、今逃げたらこの土の中で埋もれてしまっている同級生が死んでしまうっ。
きっとまだ生きてる!
どうしても逃げられなかった。
土の中はきっと冷たくて、暗くて、息苦しいはずだ。
その中で1人取り残されているとは、さぞ怖いことだろう。
烈火の中、取り残されたあの時の私のように、怯えているに違いない。
助けなきゃ!!!
両親の静止を振り切り、家を飛び出したのは下心だけでなく、切実に助けたかった気持ちが勝っていたことを今になって知る。
私はあの時がトラウマになっているし、今も夢に出てくる。
乗り越えたいと願うなら、この恐怖に打ち勝つしかないのではないだろうか。
どこか山か谷にカラカラと何かが反響した音が聞こえてきた。
聞いたことのない音に驚き、作業する手を止めて辺りを見渡した。
石が弾くような音と、木々が裂けるような音。
嫌な予感が警笛のように鳴り響くと、刹那として土砂崩れの起きた山から大量の水がドッと噴き出した。
土砂と流木が混じった水がこちらに向かってきたのがスローモーションのように視える。
炎の中で瀕死だったあの時と同じ現象にさえ思えた。
死ぬ!!!
咄嗟にそう瞼を閉じ、衝撃に備えるように両腕で顔を匿ったが、冷たい風と水飛沫を体に感じただけで、濁流に呑まれた気配はない。
い、きてる?
早鐘のように打つ心臓を落ち着かせながら、そっと目を開く。
黒の制帽、ユサールジャケットの軍服を着た男が目の前に立ちはだかっている。
激しい轟音が四方から聞こえて、この世の終わりでも告げるような地響きに思わずひゃっ!と声が漏れた。
「自然災害に飛び込む愚かな人間だな」
後ろ姿で顔の見えないが圧倒的な威圧感に圧倒される。
スラリとした体躯なのに、どうして気迫を感じるのだろう。
激しい音がするのに、私たちは確かに無事だった。
壁にぶち当たる土砂と水流は、見えない壁に覆われているみたいに、私たちを避けて流れていくではないか。
「ど、いう・・・」
理科や社会、数学でも習ったことのない現象に目が丸くなり、開いた口が閉じられない。
夢でも見ているのだろうか?
地面は確かに土砂で濡れていて、服も濡れているし、着てきたカッパは瓦礫でひっかけたのか裂けてボロボロになっている。
紛れもなく、現実だ。
「くっ・・・!!」
男は苦痛を訴える声を漏らしたので、ハッと我に返った。
「どこか怪我してますか?!」
緩やかになっていく水流は、私たちを呑み込むほどの水位だった。にもかかわらず、なぜか溺れることもなく、謎の壁に守られていたようで息もできる。
男に駆け寄ろうとしたが、軍服を纏った男が振り返って、息が出来なくなる。
制帽の黒縁バイザーで顔が覆われて見えない。
黒い軍服の腕章に【Star✴︎dust】の文字列。
右手には銀色の指揮棒を携えて、黒い革手袋をはめた男は言った。
「俺を見た人間が生ぬるい言葉をかけるなど・・・。平和ボケしているな」
ククッと口元が引き上がる男を見て、ゾッとした。
「スターダスト・・・?」
頂点に君臨したスターライトの敵、スターダストのトップ。
「“俺”がこの程度のことで怪我などするわけがないだろう」
悪の参謀が目の前に現れた。
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