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「ゲホッ!!かはっ、あ゛っ」
目の前にいる悪の組織に気が取られていたが、男の左腕に人影が見えた。
腰に抱き抱えていた人らしきそれは、土まみれになったクラスメイトだった。
「友近さん?!良かったっ!!」
堰を切ったように、友近さんはわんわんと泣き始め、おびえきっていた。
どうしてスターダストのアトラスが友近さんを?
生き埋めになっていたはずじゃなかっただろうか?
彼女の肩を抱きしめたが、私自身も怯えていたのか手が震えていた。
得体の知れない恐怖が、腹の奥から襲ってくるように、目の前にいるスターダストが恐ろしく見えた。
2年前の事件は、魔物の襲撃によって引き起こされた出来事で、憎むべきスターダストだ。
私と両親は、この男に殺されかけたんだ!!
普段は教室に輝かしいヒーローの存在がいたから、悪の組織へ心が向かなかった。それが逆に良かったのだと今知った。
そうでなかったら私は、ずっと悪の組織を憎み続けていただろうから。
ユサールジャケットを肩にかけた男の表情は影になって見えずだったが、彼を睨みつけていたのではないだろうかと思う。
男は私を見ると唇を開きかけ、キュッと結った。
途端に、サァァァァッと雨が身体に打ち付けられる。
「・・・俺を見つめ続けるとは度胸があるな。
命知らずの人間」
制帽の縁が邪魔だと言わんばかりに指先で払うようにあげた男の素顔は、あまりにも整った顔立ちで驚いた。
悪の組織の顔は知らない人が多いと聞く。
普段、顔を滅多に見せないという噂も聞くからだ。
私も遠目に何度か見たことがあったり、ニュースでチラリと映る残影ばかりでハッキリと顔を見たことなんてなかった。
鳥羽色の美しい髪と、漆黒の瞳にかかるブラックホールのような、吸い込まれるような瞳の輝きにドキリとした。
アトラスと名乗る男がこんなにも美形だったなんて・・・。
そういえば、ネットで密かに悪の組織を推しているファンクラブがあった。・・・そういうことか。
納得したことが解せないけれど、腑に落ちてしまったのだから仕方ない。
「悪の組織のアトラス!2年前の出来事を私は覚えてるから!!絶対、絶対貴方たちを許さないっ!!」
ドロドロになった彼女を抱きしめて、アトラスを睨みつけて叫ぶように放った言葉に驚いていた。
カタカタと震える体を縛り付けるように、息を浅くしていたら、アトラスはプッと空気を漏らした笑い声を出した。
「・・・だからどうすると?恨み辛みを吐けて満足か?」
まるでなんとも思ってないかのように、男は筆で撫で下ろしたような鼻筋通った顔立ちで煽る。
なんなの、その態度!
私のこと覚えてないわけ?!畜生すぎない?!
「そんな可愛い顔で睨まれても、痛くも痒くもない。早くどこかへ行け。邪魔だ」
不意に『可愛い』と言われて頬が熱くなった。皮肉を言われているだけだと分かっていたが、何故か頭にくる言われ方でついついその言葉を拾ってしまいたくなる。
「痛くも痒くもない人間にそのうち痛い目を見るわよ!!必ずね!!」
当たり前のように、私は彼のことが大嫌いだった。
私を殺そうとした相手を憎むのは、自然の摂理だろう。
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