いつも訪れるピンチとヒーロー

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 いつも口数少ない月島くんが自らこんなに話したことに感動した。 「理解した!宇宙に漂ってる塵なんだ」 「そ。俺たちは塵を見て綺麗だとか思ってんだよ。馬鹿だよな、人間って」  馬鹿だよなと言う言葉の中に、皮肉を入れながらも愛しさが混じっているのを感じて、ミステリアスだと言った彼に対して申し訳なさを感じた。 なんだ、月島くんは別にミステリアスなんかじゃない。私がただ、知らなかっただけなんだ。 「でも、その塵がたくさん集まって、融けていくことで輝くんだから、刹那的で美しいと思うけどなぁ」  この話をすんなりと話してくれた月島くんが、人として存在していることがどこか嬉しくて、素直にそう言った。  月島くんは何か考えていたのだろうか、まつ毛を伏せて、唇を開いたかと思うと「早く片付けて帰ろう」だった。  しきりに腕時計を気にして見ていた月島くんに気が付き、予定があるのだと察する。 「ミシン私が片付けておくから、先に帰っていいよ。先生にも上手く伝えておくから」 「なんで?」 「時間気にしてたから、予定あるのかなと思って」  細縁の眼鏡は茜色に輝いた。 茜空色に染まる準備室内は、どこか異空間にさえ見えてしまう。 「この数を1人でやらせる阿保がどこにいんだよ」 「大丈夫!女子でも力はある方!握力測定で35あったし!」 「それはだからな」 「うっ・・・今のは花内くんに言わないでね」  恥ずかしいからとごにょごにょ言うと、月島くんはぶはっと噴き出したように笑った。 「ぶはっ、だっさ。自慢することかよ、35とか」  初めて月島くんの笑った顔を見て、キュンとしたのを認めたくない自分がいる。  私は花内くんが好きなのに、月島くんの初めての笑顔を見たくらいで胸キュンするとか、私チョロすぎない?! いや、今のはたまたまなんだから!チョロくない!私はチョロくなんか!!  なのに、月島くんは私の斜め想像を行く答えを口にするから、回答に困るのだ。 「35なんて俺が小5の時に出した記録だから」  ポンっと頭を撫でられ、ヒュッと心臓が縮まるような感覚に落ちた。 大きな手で、だけど優しい手つきで撫でた彼の優しさに気が付いて、心が熱くなる。  彼の優しい眼差しはきっと憐れみも込められているだけだろう。だから、勘違いなんかしちゃだめだ。  首をグリンっと無理やりそっぽを向けると、月島くんはなんてことなかったようにミシンを軽々と4つ持ってせっせと運び始めた。  「ほんと、35って言ったことがはずかしっ」  彼に聴こえるか聞こえないかくらいの声音でつぶやいた。  今、月島くんに顔を見られなくて良かった。 穴があったら入りたい。 考えてみたらわかることなのに。 つい見栄を張ってしまった。 男子に敵うわけないのに、つい男子と同じ土俵に立とうとしたことを。 別にか弱さをアピールしたかったわけじゃない。 彼に可愛いって思われたかったわけでもない。 ただ、月島くんに気遣われたくなかっただけ。 「大丈夫だよ」って言ってあげたかっただけなのに。  今、とても恥ずかしい。 息をするのもやっとなほどに心臓はバクバクしている。 「瀬戸内?」  彼に声をかけられ、ビクッと肩が揺れた。 今、彼の顔を見たらきっと驚かれて心配されてしまう。  恥ずかしくて、惨めで泣いているだなんて。 「ごめん、俺が気に触るようなことなんかした?」  バレないように背を向けていたはずなのに、あっさりと見抜かれて、食いしばっていた唇が出てきてしまう。 「ちが・・・そうじゃない。そうじゃないよ。 ただ、月島くんが遠慮してるんじゃないかと思って。頼りなくてごめんね。逆に気遣わせて」  早く帰ろうとしてた。 彼と少しでも、として近付けるように頼りになれるクラスメイトとして存在できるようになりたかった。  それなのに、逆に気遣わせてしまったことが嬉しくもあって、女子として遠慮されていることに悲しさもあって、頼りない存在として彼に映ってしまったようで、情けないなと思った。  潤んだ視界の端に、ぼんやりと揺らぐ茜色に染まる準備室。  背の高い彼が近づいてきて、視線を合わせるように少し屈んでくれている。  眼鏡越しに映る黒い瞳は宇宙が広がっているかのようだった。 「それは瀬戸内の方だろう。 遠慮は・・・してるけど、でもそれはこの年頃なら当たり前のことだろうし、気にする必要なくね?」  涙がひたひたと伝うのを拭って、濡れたまつ毛のまま彼を見つめた。 「そうなんだけど・・・ごめん、恥ずかしいところみせてるよね」  この環境からどうにか脱出したい気持ちで照れ笑いしてみせると、彼は深刻そうな顔をして唇を開いた。 「、忘れてしまいたい?」  唐突な彼の言葉で頭の中は???で埋め尽くされた。 首を横に振って「別に?ただ恥ずかしかった。それだけだよ」と言うと、彼はどこかホッとしたように、再びミシンを片付け始めた。
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