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炎の中の正義
正直、戦隊ヒーローは皆無に等しく、興味など無かった。
ただ、この世界に魔物が現れ、私たちの世界は変わっていくことになる。
例えば、街のどこかで怪人が暴れていて死傷する事件が勃発したり。
例えば、世界を支配しようとする悪の組織が人々を恐怖を煽るようなことをしていたり。
世界を少しづつ、混乱させていく日常へと変えていった。
そんな私の日常は、悪の組織によって壊された。
両親とアウトレットモールでショッピングをしていた14歳のクリスマス。
世界各地でクリスマスといえばという題名で飾られていたモミの木が展示されていたそこは、炎の海となっていた。
子供の泣き声と悲鳴が入り乱れたショッピングモールは、まるで地獄絵図だった。
クリスマスツリーの展示会の中は、迷路のようになっていた。
イルミネーションが美しく映えた鏡張りの部屋は、真っ赤な炎で目が焼かれそうだった。
「おとーさん!!おかーさんっ!!」
粉々に割れたガラスと鏡が床に散乱して、黒煙が顔を覆っていく。
喉が焼かれそうなほどに熱くて、皮膚も溶けてしまいそうだった。
さっきまで色鮮やかに鎮座していたツリーの飾りは、倒れてもなお美しく輝いていたが、その下に両親が巻き込まれていることに気が付き、声が出なかった。
倒木したクリスマスツリーの下に下敷きになった黒髪ロングの母と、刈り上げた短髪の父。
いくら声をかけても2人は反応しなくて、大木を退けようと押したり引いたりしてもびくともしなかった。
木の皮が貼り付いて、ポロポロと床に砕けて落ちていくのを眺め、自身の無力さに涙が溢れていく。
誰か、だれかたすけてっ・・・・!!
私はどうなってもいい、どうなってもいいから、どうか、お母さんとお父さんを助けて!!!
真っ青になった唇をした母は、もう生きているのかすら怪しかった。
破裂音が響く中、体内に流れてくる熱風で喉や肺が焼かれて呼吸がしづらくなり、父と母ように床へ這った。
もう、涙で目の前が見えづらくて、呼吸も上手くできない。
このまま、死んじゃうのかな。
虫の息になり始めた自分は、冷静にも目の前にいたであろう両親へ手を伸ばしていた。
せめて、最期は父と母の手を握ったまま逝きたい。独りぼっちは嫌だ。
途方もない孤独感。
押しつぶされそうになる不安を冷たくなった母と父の手を握り、安心させたかった。
私はここにいると、2人に報せたかった。
黒煙が舞う中、微かに人の気配を感じた。
炎に屈することなく、静かに近寄って来たソレは、私の想像だったのだろうかと思うくらいファンタジックな絵図だ。
全身赤いタイツに身を包み、けれどどこかカッコ良く見えるシルバーのベルト、そして顔を隠す仮面。
戦隊ヒーローモノのセンターで、カッコいいセリフを吐くリーダー。
「こんな中で助けようと残り続けたのか」
低くて冷たい声なのに、どこか体温を感じる。
赤いタイツを身に纏った男は、両親の手を握る私の手の上に手をのせてこう言った。
「僕よりも強い心を持ったヒーローだね」
膝をつき、表情の見えない男は口元のフェイスガードの変身を解くと、口角を緩ませた。
「許せよ、瀬戸内」
彼は私の顔へ近づくと、唇に柔らかな感触がした。
どうして、私にキスをしたの?
ありえないことが目の前でいっぺんに起きた。
ぼうっとする。炎の世界で、私はただこの温もりにすがるように瞳を閉じた。
温かくて、心地よいその温もりに、安堵したのだ。
手放し掛けた意識の中で、彼の背中に揺られていた。朦朧としていたが彼の両腕には、母と父を抱き引き摺っていた。
次に目を覚ました時には、私たち3人は病室にいて、重症を負った母も奇跡的に意識を取り戻した。
私たち家族を救った赤いタイツ姿の男は“スターライト”と呼ばれている。
彼に恋心を抱くことに時間は掛からなかった。
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