4 論争、地球温暖化

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

4 論争、地球温暖化

動画サイトの司会者「それでは30歳というフレッシュなお二人に、心ゆくまで意見をぶつけてもらいましょう。環境保護原理主義者の近衛実美さん、異色の地球温暖化研究者、日下部真琴さんです。どうぞよろしくお願いします」 日下部・近衛「よろしくお願いします」 司会「早速ですが、昨今では厳冬期でも雪がまったく降らなくなってしまいましたね。これについてどう思われれますか?」 近衛「由々しき事態であると考えます。いますぐにでも世界的な協調を呼びかけていくべきでしょう。〈京都議定書Ⅱ〉なんてどうですか」 日下部「近衛さん、失礼ですが専攻は?」 近衛「法学です。法曹資格もあります」 日下部「けっこう。では弁護士事務所を開業してはどうでしょう」 近衛「どういう意味ですか」 日下部「あなたに地球温暖化を語る資格はない、という意味です」 (司会が吹き出す) 近衛「象牙の塔にこもってる学者さんの言いそうなことですな」 日下部「申しわけないが、あなたがた過激派は基本的な知識すらないようのでね」 近衛「二酸化炭素は温室効果ガスである。人類は産業革命からずっとそれを環境に放出している。CO2濃度に比例して温度は上がっている。地球温暖化を止めるには炭素を削るしかない。以上、証明終わり」 日下部「そもそもCO2だけが――」 近衛「知ってますよ、水蒸気も温室効果ガスなんでしょ。でもそれは昔から空気中に充満してるんだから――」 日下部「このグラフを見てください。南極の氷床からサンプリングしたものですが、これによれば気温が先に上がった、CO2濃度が上がってます。因果関係が逆なんですよ」 近衛「データの切り取り方でこういうグラフはいくらでも捏造できる」 日下部「あなた方が称賛しているホッケー・スティック曲線のようにですか?」 近衛「古い話を持ち出すのはやめてもらいたい!」 日下部「温暖化は科学ではなく政治問題と化して久しい分野です。わたしはそれをいま一度、科学の領域に引き戻したいんです」 近衛「ほう、ではお聞きしましょうか。高邁な科学的地球温暖化論とやらを」 日下部によって過去の気候変動パターン、地球の歳差運動、超新星爆発で発生するミューオンによる雲の生成、中世のマウンダー小氷期、産業革命以前の温暖化の時期、その他いろいろの二酸化炭素単体悪玉説に旗色の悪い理論が提示される――。 近衛「仮にそれらが正しいとしても、二酸化炭素をこのまま垂れ流してよいことにはならない」 日下部「その通りです」 近衛「聞きましたかみなさん。いまこの男は二酸化炭素が悪玉だと認めましたよ」 日下部「野放図な開発ではなく、持続可能な路線へシフトすべきだと言ってるだけです」 近衛「同じことのように聞こえますね」 日下部「乏しい理解力のなせる業なんでしょうな」 近衛が日下部に殴りかかり、司会が身体を張って止めるという顛末に。動画はこの手のお堅いチャンネルでは考えられないほどの視聴回数を叩きだし、二人の青年は一躍有名人となる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!