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6 訣別
近衛の裏工作から5年後、プルトニウム型原爆を大量に入手したインドがパキスタンのカラチへ向かって短距離弾道ミサイルを発射。
これが呼び水となって全世界の核保有国が核戦争に参戦し、世界の主要都市は近衛の思惑通りに瓦礫の山と化した。
〈核の冬〉仮説には長らく、実験によって証明されていない与太であるとの批判がついて回っていた。提唱者である故カール・セーガン氏にとって幸いなことに、実験は行われた。
そしてセーガン氏の仮説は実地で証明されたのである。
近衛実美と日下部真琴の二人は、冷風の吹き荒ぶ屋外で睨み合っていた。その日は8月の真夏日で、気温は4度もあった。
正午すぎだというのに陽光はほとんど届いていない。燃え上がった都市の残骸が地球をすっぽりと覆っているのだ。
「お前がこれを――」日下部は壊滅した都市を身ぶりで指し示した。「惹き起こしたらしいという話を信頼できる筋から入手した」
「だったらどうなんだ?」
「核攻撃で推定30億人が死んだ。生き残った人びとも放射線障害や寒さで死んでいくだろう」
「人間が減れば二酸化炭素も減る。けっこうなことじゃないか」
「俺にはわからん。なぜそこまでして地球を冷やしたがるんだ」
「雪が見たかったんだ。俺たち〈ロスト・スノウ〉世代は雪で遊んだ思い出がないだろ」
「お前は……狂ってる」日下部は処置なしだと言わんばかりにかぶりを振った。
近衛は肩をすくめてみせた。
「いまこの場でお前を殺すべきなんだろうな」
日下部は拳銃を取り出した。政府機能が麻痺しつつある昨今、入手が容易になった物品の筆頭候補である。
「やってみろよ」
しばらく研究者は武器を弄んだあと、だしぬけに興味を失った。路上に投げ捨てる。「お前は殺す価値すらない」
「逃げるのか、日下部」
去り際、研究者は言下に吐き捨てた。「俺はやれることをやるつもりだ。お前は自分のやったことの重さに押し潰されるがいい」
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