7 エピローグ

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 近衛実美老人の懺悔は終わった。  日下部少年はあくびをかみ殺している。「で、その話が俺となんの関係があるんだい」 「聞いてなかったのか。君は日下部真琴の実子だろう」 「アンタのことは親父から聞いてるよ。罪の重さに押し潰されたのかい」少年は死体(資産)から食料を得られてご満悦だった。 「〈核の冬〉が訪れて17年経つ。仮説では数年で終焉を迎えるはずだったんだ」 「『科学とは実験をくり返して理論を修正していく営みである』」  近衛は目を瞬いた。 「親父の受け売りだけどね。一回も実験してなかった仮説なんだから、その通りになるわけないじゃん。これだから文系は……」  近衛は恥じ入った。「君のお父さんはいまどうしてるんだ。〈核の冬〉を終わらせる研究をしてるんだろう。そうだと言ってくれ!」 「ああ、してたね」 「してた? なぜ過去形なんだ」 「死んでるよ、とっくの昔にさ。生きてるはずないじゃん」 〈核の冬〉が太陽光を5パーセント程度にまで遮断している昨今、厳冬期は氷点下40度付近まで下がるのが通例である。体力の弱った高齢者が快適に暮らせる環境からはほど遠い。 「君は研究を引き継がなかったのか?」近衛は一縷の望みに賭けた。 「親父が死ぬ間際に言ってたんだけどね、結局〈核の冬〉はどうにもできないんだってさ。煤塵がゆっくり晴れてくのを待つだけだって。だから俺はこうして生きることに専念してるってわけ」 「なんてことだ……」老人は地面に突っ伏し、頭を抱えた。 「雪の思い出がなかったから、アンタはこんなバカな真似をやらかしたんだよな」  頭を抱えたまま、実美は答えた。「そうだ」 「俺はね、雪の降らない光景を見るために生きてるのさ。太陽ってやつをいつか絶対拝んでやる」日下部の息子は吐き捨てた。「アンタとは真逆の夢だね」
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