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 目を瞑って、寒さに耐えていると不意にガリガリという音が聞こえた。前を見ると、お婆さんが扉の前に立っていた。その人影がどういう意味を持つのか一瞬分からなかった。  一小節遅れてから、扉が開かないんだという事に気付いて慌てて立ち上がり手伝う。扉を開き、招き入れる。お婆さんは雪を払い軽く会釈して「ありがとう」と言った。何か気の利いた言葉を返したいが、特に思い浮かばないので「いえ」という返事とも取れない言葉を発する。誰かに言い訳をするみたいに、頬の肉を片手で揉みながら扉を閉める。外はちょっとした吹雪になり始めていた。思い出した様に時刻を確認するが、まだ三十分程度しか経っていないことが分かる。 「今日は寒いね」  お婆さんは、上品な笑顔を浮かべてそう言った。 「そうですね」  僕も微笑みながら返す。 「お兄さん、N大の大学生?」  お婆さんはゆっくりと座席に座った。 「ええ、まあ。何で分かりました?」 「何となくそんな気がしたんよ。雰囲気とか、言葉のイントネーションでね。この辺は若い人が来るような観光地でもないし。お兄さん何処から来たの?」 「東京です」
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