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 雪国特有の小さなプレハブ小屋の様なバス停の扉の前で、肩や髪の毛に張り付いた雪をあらかた落としてから、扉に手を掛ける。溝に雪や砂利が入り込んでいるために動きづらい扉をガタガタと音をたてながら引いて急いで中に入り、同じく力任せに閉めた。  手前の座席に買い物袋を置き、皮手袋を外す。携帯電話を取り出し、壁に掲示されている時刻表と見比べる。直近のバスはおよそ十五分前に出発しているらしく、次の便は約一時間半後だという事実が頭の中に木霊した。脳裏に一瞬タクシーという言葉がよぎる。しかし、バス停にタクシーを呼ぶ事は何だか酷く馬鹿げた事の様に思えた。それに、これまでの努力を無駄と認めるような気がして、タクシーの電話番号を調べる気にもならなかった。  となると、もう打つ手は無い。ここで時間を潰すしかないのだ。バス停の中を見渡す。壁に先程見た時刻表、路線図が掲示されているのみで、暖房器具はおろか自動販売機も無い。古いトタン缶を再利用した灰皿が置かれているばかりだ。座席に腰を下ろすと、ズボン越しに臀部の体温がみるみる奪われていくのが分かる。窓ガラスに視線を移すと樹枝状の氷晶が張り付いていた。
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