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おば様が用意してくれたのは、不思議なきらめきを放つ青いドレスだったわ。きらきらと輝く布地は、魔法で丁寧に織り上げられているらしい。最上級の品質だと聞いて少し申し訳なくなったけれど、リダールが嬉々としてお金を出したと聞いて苦笑に変わったわ。
食事と身支度を終えたところで、リダールが迎えに来た。金色の糸で刺繍を施された黒いマントを羽織っている。魔王をしてるリダールも素敵だわ。
「カリオとクシェが会いたがっている。お前の味方になると宣言しているが、どうする、会うか?」
差し出された手を取って、私はリダールを見上げた。
「会うわ。二人と話がしたいもの」
「なら、こちらだ」
リダールに案内されたのは、一つ下の階にある応接間だったわ。踏み出した足が沈みそうなほど柔らかいカーペットと、座り心地の良さそうな革のソファー。壁際にはメイドが待機していて、手厚くもてなされていることが分かる。ソファーに座るカリオとクシェは、ものすごく居心地が悪そうだけれど。
「姫様!」
部屋に入った途端、クシェが飛び上がって走ってきたわ。そのままの勢いで抱きつかれて、思わず笑みが零れる。
「あらあら。クシェ、どうしたの?」
「あんなに寝てたんだから、心配して当たり前です!」
ふふ、初めて会った時とすごい違いね。だけどクシェと仲良くなれて嬉しいわ。
「姫様、ご無事で何よりです」
気が付けば、カリオが近くで跪いていた。相変わらず固い態度だけれど、今はそれも気にならないわ。
「カリオ、こっちについて良かったの?」
「はい。私は姫様に生涯仕えると決めています」
そう断言するカリオの顔は、むしろ旅立ち前よりもすっきりしている。だから私も、小さく微笑んで頷いた。
「姫様、お伝えしたいことがございます」
「何かしら?」
一瞬だけ何かを言い淀んだカリオは、すぐにふわりと笑った。
「姫様と魔王陛下を、心から祝福いたします。魔王陛下の隣で笑う姿は、私が今まで見たどの笑顔よりも美しい。姫様の騎士として、従兄として、あなたの幸せを願って、いえ、確信しております」
初めて見る、カリオの儚げな笑みだったわ。なのにすごく幸せそうだから、私は何も言えなくなった。
だって私の知っているカリオは、嫌になるくらいに生真面目な男だから。最近では小言とお世辞、社交辞令しか聞いてない。それが、こんな風に個人的な心情を口にするなんて。
「……ありがとう、カリオ」
ちゃんと分かっていたのよ。カリオは固すぎて融通が利かないけれど、私のためにそうしていたんだってことくらい。
だからこうやって解放されたことが、自分でも驚くくらいに嬉しかった。鬱陶しいと思っていたはずなのに、私も心に余裕ができたからかしら。
これまでの感謝と、ほんのちょっとの悪戯心も込めて、私はカリオに顔を近づけて囁いた。
「そういえば聞きたかったのだけれど、クシェのことはいつから?」
「えっ、な、はい!?」
一気に首まで赤くして後ろに飛び退き、私とクシェを交互に、それも高速で見るカリオがおかしすぎて、声を上げて笑っちゃったわ。こんな可愛らしい一面があったなんて、今まで損していたかもしれないわね。
「カリオ様?」
クシェが不思議そうに名前を呼ぶものだから、カリオったらとうとう言葉を失くしちゃった。この調子じゃ、口説き落とすのはまだ無理そうね。
「セレア、遊ぶのはそのくらいにしてやれ」
一転して苦笑いしていたリダールが、やんわりと止めに入ってきた。そして、真っ赤になっておろおろしているカリオを呼ぶ。
「カリオ・トゥーリア。貴公の大切な姫君、必ず幸せにすると誓おう」
改まった挨拶にカリオは目を丸くして、でもすぐに笑み崩れた。
「ええ、知っています」
実は仲良くやれるか心配だった二人だけれど、これなら大丈夫そうね。胸を撫で下ろしたのも束の間、そこに宣戦布告を叩きつける者がいた。
「あたしだって!」
きっと眦を吊り上げたクシェが、カリオに指を突き付けた。
「カリオ様には負けません! 立派に姫様に仕えて見せるんだから!」
ごめんなさい、カリオ。ちょっと笑いが止まらないわ。情けない顔に「そんな」って書いてあるわよ。
リダールと一緒に遠慮なく笑っていると、くるっとこっちを向いたクシェが再び抱きついてきた。耳元で小さな声。
「ねえ姫様、カリオ様って、ルシオンと違っていい人だね」
無言のままクシェの背中をぽんぽんと撫でると、小さく鼻を鳴らしてから離れていく。もうクシェは明るい笑顔を浮かべていて、カリオに向かって胸を張っていた。
「ほら、あたしの方が姫様と仲良くできます!」
「……仕える、というのは、仲良くするということではないが?」
「それくらい知ってますー! ほんとにカリオ様は頭が固いんだから!」
いつもの言い合いだけれど、旅の最初みたいなギスギスした空気はないわ。
今この部屋には、魔族と人間がいる。でも互いを憎み合ったりしてはいない。ルシオンを改心させることはできなかったけれど、それでも和平は不可能ではないはずよ。
その希望を見せてくれた二人のためにも、頑張りましょう。
「話がまとまったのなら、次は作戦会議だ」
リダールの言葉に、私は高い位置にある綺麗な顔を見上げた。悪だくみをしている顔。いつ見てもよく似合っているわ。
「セレアを幸せにするための、平和な世界征服をしようか」
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