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「世の中には消防士とか自衛隊とかさ、本当に命懸けの場面がある仕事があるよね?」
「えぇ、まぁ」
「そういう人たちが言うのはいいさ、俺たちみたいな単なるサラリーマンが命懸けなんて言葉使う自体がさ、失礼じゃない?」
「はぁ、まぁ」
「で、おそらくだけど我々が出来る命懸けなんてせいぜい睡眠を削るぐらいなわけ」
「ええ、まぁ、そうかも」
「そうするとどうなる?」
「どうなる、とは?」
「パフォーマンス的にさ、人は睡眠を削るとどうなるの?って話」
「そりゃあ、下がりますかね」
「だろ?普通の状態ですらそんなに優秀じゃないんだから、そのパフォーマンスが下がった状態でできる仕事ってなに?」
「なに?って言われても、、、なんでしょう?」
「いいか、そんな仕事誰でも出来る仕事に決まってるだろ」
「はぁ」
「つまり、誰にでも出来る仕事に命をかけろなんて言ってる時点でお前の事なんて考えてないって気づかないと、な?」
「え?、、、えええええ!」
「そんで、そんな仕事を徹夜でやり遂げた後になんらかの達成感なり手応えがあったとしても、な、それただの勘違いだから」
「え?えええええええ!」
「いや、ほんと」
「そ、そうなのかな?でも、ほら、プルスウルトラとか?」
「なんそれ?」
「限界を超えるみたいな?」
「限界を超えた後になにか生まれるみたいなやつか?」
「そうそう、それです」
「そもそも、そういうやつの命懸けって言うのは自分では気が付かないやつだぞ」
「え?」
「つまりよ、その仕事に没頭しているあまりまわりが見えなくなって寝食を忘れ、いつのまにか命懸けの作業になっていた、とか」
「はぁ」
「そこまで没頭してはじめて命懸けって言えるんじゃね?自分からいうとかさ、ないでしょ、更に人から言われてとかさ、更にないでしょ、そんなの、なんちゃって」
「なんちゃって?」
「そう、なんちゃって命懸け」
「はぁ」
「良くて自己満足、悪けりゃ人の操り人形だな」
「怖い事言いますね」
「怖いよ、特に簡単に命懸けなんて言葉を使う奴には要注意だな」
「はぁ、じゃあ、命懸けないっす!」
「よし!よく言った!マジメ!」
次の日、ガサツさんは課長に呼ばれて怒鳴られていた。
「なんだ有賀この成績は?ふざけてるのか?」
「い、いえ、そんな事は、、、」
「え?なんて?聞こえないぞ、やる気がないなら辞めてもらっても良いんだぞ?」
「いえ!次こそは!命懸けで頑張る所存です!」
ええええええええ?
やっぱりすごいや、ガサツさん。
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