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「あ、あの、どのへんがしょうもないのですか?」
なんとか気を取り直して聞いてみた。
「あんなぁ、たとえば貧困で苦しんでる人が居るとしてだな」
「はい」
「その人に食料をあげる人がいたとしような」
「えぇ」
「そんで、その人に食料をあげる人が実は次の選挙に勝つために人気取りでそんな事をしていたとする」
「はい」
「で、君はそれを一人だけ知ったとしよう、その時どうする?」
「そりゃあ、偽善者だとわかればそれを公表するでしょう」
「その結果その選挙目当ての男は秘密をバラされて偽善をやめる事になるかもしれんけどそれで良いん?」
「そりゃあ……それで良いでしょう。そもそも偽善なのだから」
「腹をすかした人々はどうなる?」
「それは他の方法でなんとか」
「なんとかならなかったら?」
「……そんなこと言われても」
「そんな事は知ったこっちゃないってか?」
「……いえ」
「つまりさ、その偽善を許さないって正義のせいで誰かが飢えて死ぬかもしれないってことなんだよ」
「そ、そんな」
「そんなことがある訳ない?」
「だって」
「だってもあさってもないんや。そこまで考えが及ばないんやったらその偽善者よりたちが悪い」
「……」
「正義のミカタに見える分だけな」
「な、なるほど、じゃあ、なんで偽善なんて言葉があるんです?」
「そりゃ、あれだ、本物の善意もあれば嘘の善意もあるよなって気がついた奴がいて、そいで自慢したかったんちゃう?」
「…んな理由で?」
「まぁ、実際偽善者って言葉ができたお陰で人々が少し騙されにくくなったり、より良い社会にしようなんて事を考えたりする様になった事もあるやろ」
「じゃあ、悪いことばかりじゃないということですね?」
「あぁ、そうだ。悪いことばかりじゃあないよ、そういう余裕のある人々の仲間内ではね」
「なんか奥歯になにか挟まったような言い方」
「挟まっとるよ、さっきのさけるチーズが」
「いや、、そうじゃなくて」
「つまりな、余裕のない奴らも世の中に居るって事をすっかり忘れてる脳天気な奴等の間では通じるって事」
「やっぱり毒舌」
「ほんまのことや」
「じゃあやっぱり意味のない言葉なんすか?」
「意味はなくはない、そこまで考えればだ」
「え?そこまで?」
「偽善なんて言葉を思いつくくらいに頭が良いんだろう、じゃあ更にそんな言葉じゃ救えない人もおるって事まで考えてその先の手を打てるなら……ていう条件付きで、意味がある」
「、、、途方もないっすね」
「せやな、だから考えるな」
「はい」
「感じろ」
「どっかで聞いたような……」
「オリジナルだ」
「えええええ」
僕はどこで聞いたか思い出せずに、もう一度グビリと喉を鳴らした。
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