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命なんてかけなくていい
「だからな、いのちなんてかけなくていいんだよ」
場末の飲み屋のカウンター席に陣取った僕と先輩はダラダラと愚痴をこぼすだけの飲み会だった筈が要らぬ一言で一転し先輩のありがたい説教モードに入った。
しかし不思議と僕はこの先輩の説教が苦痛ではなかった。
なぜならそれはある意味論理的であったり論理を飛躍したりしながらたまに目から鱗が落ちたり落ちなかったりするので、酒のつまみと言えば怒られそうだがある意味、極上の肴たりうると密かに思っているからだ。
「だからな、マジメ。そんな事をいちいちまともに受け合う必要なんざないのさ」
マジメと言うのは僕の名前、ではなく渾名である。
本名が真島一(まじまはじめ)で、容姿が七三メガネ、性格もマジメとくれば妥当な渾名と言えなくもない。
「しかしですよ、確かに課長の言うことにも一理あるように思うんですよ、ガサツさん」
ガサツと言うのも先輩の渾名である。
本名は有賀沙月(ありがさつき)。
まるで女優の様な名前だが見た目は千原兄弟のせいじにそっくりな男性である。
そして性格もかのタレント千原せいじさんに似てるとなればある意味妥当な渾名と言えなくもない。
「どこが?」
「課長曰く人は命懸けの仕事をした後に気がつく事が出来る何かがあるって言うんです」
「何かって何?」
「え?そりゃぁ、なんでしょう?」
「適当な事を言ってんだよあのゲーハーは」
「いやいや、適当ではないと思いますよ」
「その何かを掴んであの程度の人格なら掴んでも掴まなくても良いんじゃないか?」
「え?ぇえええ?」
「まぁ、兎に角だ、その説が本当だとしてもよ、まず最初に命懸けの仕事ってなによ?」
「え?そりゃ、、、命懸けで」
「だから具体的にさ単なるサラリーマンが命懸けの仕事をするってさ、どうやるの?って話」
「はぁ、、、」
これだ、ガサツさんはこの見た目でかなり鋭い事を聞いてくるのだ。
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