初恋

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初恋

★ 「じゃあ慧くん、よろしくね」 「あっ、ああ」 語尾の「ね」でわざとらしく首をかしげて見せた。隣では大志が散歩前の犬のように興奮している。 三人でリフトに乗り込んで中級コースのスタート地点を目指す。その間、大志は僕の過去ネタを持ち出して話を盛り上げた。 「こいつさぁ、いまだに初恋を引きずってやがんの」 「それを言うなぁ~! おまえは口が軽すぎだ!」 「なんでも臆病風に吹かれて踏み出せないから、あだ名が『シン・無気力男子』なんだよな」 「そのあだ名もやめろっ! 『シン』ってつければ観たり聞いたり読んだりしてもらえると思うなよ!」 みぞれさんは僕らのやり取りを聞いてけらけらと笑う。大志に初恋エピソードを明かしたのは人生最大の失敗だ。 「だいたい、他人に話していいなんてひとことも言っていないぞ!」 「話しちゃだめなんて言わなかっただろ? おまえの脇が甘いだけだ」 みぞれさんは目を爛々と輝かせている。 「へぇ~、どんな初恋だったの? 聞きたい!」 「ほえ? 知らなかったのか。じゃあここだけの話だけど――」 まったく、大志はいままでに「ここだけの話」という枕詞を何度用いたことか。 ――あれ?   僕はふと、みぞれさんの反応に違和感を覚えた。 大志のせいで初恋エピソードはクラスメートに知れ渡っているはずだ。ことさら輪の中心にいる彼女が知らないとは思えない。なぜだ? けれど僕の疑問をよそに大志は意気揚々と語り始める。 「えー、こほん。それはいまから6年前のこと――」
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