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拒絶
★
中級コースは距離が長く、ところどころに傾斜の急なの難所があった。休憩を挟みながら滑り降りてゆく。息をつく時間があるせいで、初恋エピソードの続きを僕が語らされるはめになった。連載開始となった原因の男はてこずっているようでいまだに降りてこない。
「そのお姉さんって、どれくらいの年齢だったの?」
「高校一年生だって聞いた」
「じゃあ、今のわたしたちと同年代じゃない」
「悪いけど、落ち着いていて大人っぽかったよ」
「小さい頃は誰でも大人っぽく感じるものじゃないの?」
みぞれさんは自分と比べられていると思ったのか(実際はその通りなのだが)、きわめて不服そうな顔をした。
「でもさ、慧くんは今、夢とか挑戦したいことってあるの?」
「べつにないよ。僕は大人になったんだ」
「それは大人になったってことじゃない。そう思うなら、今のきみはほんとうにシン・無気力男子だ」
頬を膨らませて僕を睨みつけるみぞれさん。無理やり誘っておいて不機嫌になるなんてお門違いだ。
「そのお姉さん、今のきみを見たらがっかりすると思うなぁ」
そう言われて癇に障った。反射的に言い返す。
「がっかりすることなんて絶対ない。だって、もう会うことはないんだから!」
思わず声を荒らげてしまった。みぞれさんは驚いたようで、目を丸くして口をつむぐ。
「ごめん……」
僕の怒りを受け止めたみぞれさんは、思いつめたようにぽつりとこぼす。
「あのさ、もう一度だけ一緒に滑ろうか。こんどは上級コースを目指してさ」
みぞれさんはゲレンデの最奥まで続くリフトを指差した。仲直りのためなのかわからないが、その真剣な表情は覚悟めいた思いを感じさせた。僕も真顔で返す。
「いいよ。けれどこれで僕につきまとうのは最後にしてほしい」
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