失恋

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失恋

★ 僕の初恋エピソードには、誰も知らない続きがある。 お姉さんは僕よりもずっと重い病気で、長い入院生活となり、学校に通えていなかった。 次第に元気がなくなり、笑顔が減ってゆくお姉さん。病室にこもりがちになると、僕はお姉さんの病状よりも、明日こそは会いたいという自身の願望ばかりを思い浮かべるようになった。 今になって思うことだけど、お姉さんがいてくれさえすれば解決できる僕の寂しさなんて、さほど深刻なものではなかったのだ。僕は子供で楽観的だった。 ことあるごとにラウンジをのぞいてお姉さんの姿を探す日々。けれどお姉さんは現れない。閉ざされたままの個室に不安が募ってゆく。 僕は意を決し、ついに看護師さんの目を盗んでお姉さんの病室の扉を開いた。 ――お姉さん? 目の前に映るお姉さんの姿は痛々しかった。口をマスクで覆われ、荒々しい呼吸をしている。おびただしい種類の点滴がつなげられていた。 変わり果てた姿に背筋が冷たくなり、視界がぐわんと歪む。僕は元気なお姉さんに会いに来たはずなのに。けれど足が勝手に自分の理性をお姉さんの元へと運ぶ。 お姉さんはうっすらと目を開けて僕を見、ベッドの柵の隙間から手を差し出した。 ――ごめんね。 ――なんでお姉さんが謝るの。 僕が首を傾げると、お姉さんは寂しそうに笑う。 ――だってわたし、もうすぐ天使になっちゃうから。 語尾は聞き取れないほどにか弱い声だった。そのはかなさに心臓が不規則に脈打つ。 ――またひとりになっちゃうの、寂しいでしょ。
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