27人が本棚に入れています
本棚に追加
寂しいけれど、肯定はできなかった。認めたら意気地なしって思われそうだ。けれど、それ以上にお姉さんがいなくなることを認めたくなかった。
――慧くんとのお別れ、わたしも寂しいなぁ……。
ぽつりとこぼした言葉に、僕の心臓は掴まれたような痛みを覚える。
――元気だったら、一緒にいろんなことができたのにね。
その言葉を聞いた僕は弾かれるように病室を飛び出した。自分の病室に戻り勉強用のノートを取り出す。無地のページに定規を当てて長方形に切り取った。震える手で一本、縦線を引き、右側に『お願いチケット』と書き込む。そして左側に――。
『神様へ この人の願いを叶えてください』
そう書き込んだ。
神様が子供の願いを叶えてくれるのなら――僕のお願いは、お姉さんのために使ってほしい。
僕は病室に戻り、お姉さんの目の前にチケットを掲げる。
「これを持っていて! きっと、やりたいことができるようになるから!」
手の中にチケットを納めて握りしめると、お姉さんはにっこりと優しげな笑みを浮かべた。
――ありがとう、きっと役に立てるから。
それから数日後、快方に向かっていた僕は退院となった。けれど嬉しくなんかなかった。僕が病院を去る日、お姉さんは天使になってしまったのだから。
未来を見せたいと思う人が、世界のどこにもいなくなってしまった日。それは僕が『無気力男子』になった日でもあった。
最初のコメントを投稿しよう!