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スキー教室のみぞれさん
「ぷえーくちゅんっ!」
ゲレンデ場内のレストランでカレーライスをほおばっていた彼女は、繊細かつ大胆なくしゃみでクラスを笑いの渦に巻き込んだ。隣では僕と腐れ縁の男――それを人は幼馴染と呼ぶ――である大志が顔を赤らめて酔いしれている。
「みぞれたん、くしゃみまで可愛いぞ。マーメイドの美声のようだぁ~」
その言葉、僕には「あばたもえくぼ」の同義語としか思えない。
ところが絶大なくしゃみ効果の対価なのか、みぞれさん本人は小動物のように鼻をひくつかせている。何かが鼻腔に回ったようだ。
「カレーに潜むにんじんが逆襲を仕掛けたっ!」
みぞれさんは犯人をにんじんだと断定した。ジャガイモかタマネギかもしれないが、真実はひとつと信じる彼女の勢いには誰も逆らえない。
「にんじんを逮捕してくるから先に行ってて」
そう言い残し、犯人確保のためにトイレに駆け込む。数分後、彼女はすっきりした顔でグループに合流した。
「みてみて~、雪上のエアウォーク! よっ、ほっ、はっ……ヘブッ!」
無謀にもスキーブーツで新技に挑み、足をとられて雪原に大の字を描くはめになった。またもや注目の的だ。彼女は友人の視線を奪う術を熟知しているらしい。
大志はみぞれさんにくぎ付けで、ことあるごとに身悶えしている。アプローチすればいいのにと思うが、たむろする女子が分厚いバリアとなっているのだからしょうがない。
「今度は中級コースに行ってみようよ!」
エナジー補充を完了したみぞれさんは果敢にもそう言い出した。
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