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カタコト
翌日。
「おはよう……って南田くん、物凄く怖い顔してるけど大丈夫?」
バックヤードにいた優斗の表情を見て、先輩の綾が驚いた。
「ハイ、ダイジョウブデス…」
まだ長野に会っていないが、もうすでに緊張している。
「え…、大丈夫じゃないよね。話し方片言になってるよ」
「ダイジョウブデス…」
「…なら、いいんだけど…。それで接客できる?」
「ソレマデニハ、カイケツスルト、オモイマス…」
「その話し方治るまで、私がフォローする…ね…」
綾は優斗に言っても仕方ないと思ったのか、優斗のフォローに回ると言い店へと向かって行った。
あ~緊張する。
『昨日、どうして彼氏いるのか?って聞かれたんですか?』
これだけいうだけなのに長野チーフに直接聞くとなると、俺がチーフに変な質問してるみたいじゃん。
それに、ちゃんと答えてくれるかな?
制服に着替え、身だしなみチェックをしていると、
「おはよう」
長野が出勤してきた。
あ‼︎
「オハ…オハヨウゴザイマス」
「おはよ。って、すごい片言だな」
イケメン長野の顔が笑顔に変わる。
今、チーフ機嫌良さそう!
今聞かないと!
「あの‼︎」
「ん?」
「あの…昨日……の、事なんですけど……」
そこまで言って、優斗は言葉を詰まらせた。
あー、一回詰まると俺、次の言葉なかなか出ないのにー…
優斗がショックを受けていると、
「あー、昨日のことな」
長野は特に気にする様子もなく、優斗の言いたかったことを察した。
「あれは…どういった…意味合いで…言われたんですか?…」
語尾が消えそうになりながらも、優斗は長野に聞いた。
「それなんだけどさ、もう一つ聞き忘れてたことがあって」
「?」
「南田くんって、彼女、いる?」
「‼︎彼女ですか⁉︎」
優斗はまたしても、意味のわからない質問をされ、驚きで大きな声を出してしまった。
「そ、彼女…。というか、付き合ってる人いんの?」
長野はごく普段の会話をしているトーンで話しているが、彼女もましては彼氏もいなくて、それより付き合ったことのない優斗にとっては、これはデリケートな話だった。
「い、いません……。というか、今まで付き合ったことありません……」
え⁉︎
なんで俺、こんな事まで言っるの⁉︎
「付き合ったことねないの?…意外…ってか、なんで?」
「知りません‼︎」
その理由、俺がききたい……
「でも、それと昨日の質問と何か関係あるんですか?」
優斗は長野に少し馬鹿にされたような気分になって拗ねた。
「あ、それね。南田くんが今、付き合ってる人いないんだったら俺と付き合わない?」
「へ?」
今、この人なんて言った?
「だからさ、俺と付き合わない?って言ったんだけど」
長野はまるで『俺の話、聞いてなかったの?』とでも言うように、呆れ顔で優斗を見る。
「えーっと……、言われてる意味がわからない…です……」
優斗のなかで、上司、部下の概念を忘れてしまったかのような…
そんな喋り方になっていたが、全く気がつかず話し続けていた。
「ま、詳しい話はここではできないから、今日、俺ん家で酒でも飲みながら言うわ…。じゃ、後ほど…」
長野はそれだけ言うと、バックヤードから出ていこうとする。
「え⁉︎……。家に行くなんて言ってません‼︎」
優斗は長野の腕を掴み引き止めた。
何を言ってるんだ、この人は…
「そっか…。じゃあさ、仕事終わりにどこか店で飲むか?」
「え⁉︎」
「南田くんが家は嫌だっていうから、仕方なしに店にしたのに…。それとも南田くん酒飲めねーの?」
「飲めます‼︎」
「家と店、どっちがいいんだよ」
「…店です…」
「じゃあ、店だな。仕事終わりに行くから、残業しないで済むようにテキパキ働けよ」
長野は言いたいことだけ言い、驚く優斗を置いて店へと向かった。
…………。
なんだったんだろう……。
とりあえずは、長野チーフの家に行かなくても済んだけど……
って!俺、まんまとチーフと店に飲みに行くことになってる‼︎
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