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行きますか
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「お疲れ様。一時はどうなることかと思ったよー。片言も治ってよかった」
綾がホッと胸を撫で下ろした。
「それに今日の売り上げ凄かったね。今までで一番良かったんじゃない?」
「そうなんです。それもこれも……」
「あ、山口さん。俺もあがるから野上さんも無理せず、キリのいいところで帰ってね」
長野が優斗の声を遮るように言った。
「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした」
綾は長野に微笑みかけると、また自分の仕事に戻っていった。
「長野チーフ、今日はありがとうございました」
チーフがフォローに入ってくれたから、びっくりするぐらい商品が売れた。
しかもお客様みんな笑顔だったし。
さすがだな…
「そんなことないよ。そのうち南田くんにもお客様が何を欲しているのかわかれば、自然と笑顔で購入して帰られるから」
長野の仕事場での笑顔とはまた違う笑顔を向けられて、優斗はドキッとした。
「勉強になります‼︎」
「手本は俺より、ひよりさんの方がいいぞ」
長野が優しく優斗の頭をポンポンと叩く。
「そんなことないです。山下マネージャーも凄いですが、長野チーフも素敵で、俺の憧れです」
売り上げだけじゃなくて、お客様に寄り添ってるのが凄い‼︎
優斗が力説すると長野が顔を俯かせた。
「チーフ、大丈夫ですか?」
優斗が長野の顔を覗き込もうとすると、
「大丈夫…」
「でも耳まで真っ赤ですよ…」
優斗がそっと長野の耳に触わると、長野がビクンと肩を揺らす。
「これだから無自覚は困る…」
「え?」
長野がボソッと呟いた言葉は優斗には聞こえていなかった。
「それより早く着替える!店行くぞ」
「はい‼︎」
はじめは優斗も長野と飲みに行くのは納得行ってなかったが、だんだんと2人で飲みに行くのが楽しみになってきていた。
ここって人気の店だよね…
店内に入ると、そこは優斗が今まで見た事がないような店だった。
オレンジ色の照明が店内を照らし、一枚板のような長いカウンター、そして3~4人用のテーブルなが等間隔であった。
壁には沢山の種類の酒の瓶が並んでいて、どの客からも見えるところにある黒板にはびっしりと、オススメ料理と酒が書かれている。
それにしても、すごいお客さんの数。
見渡さなくてもわかるぐらい、お客で満席だった。
「チーフここ満席ですよ…。ほかの店の方がいいんじゃないですか?」
「大丈夫。予約取ってるから…」
え⁉︎
ここって予約取れない店じゃなかったっけ?
長野が店員に何か話すと、
「こちらへどうぞ」
個室に通された。
長野はメニューに目を落とすと、
「南田くん、とりあえず、注文なんでもいいか?」
「あ…はい」
「ワイン飲める?」
「少しなら…」
「赤?白?」
「赤で…お願いします」
「それともサングリアにするか?」
「始めはサングリアで…」
「じゃあ、このワインとサングリアで、食べ物はお任せでお願いします」
スラスラと注文をする長野に優斗はびっくりし、目をパチクリさせた。
えーっと…
どうなってるんだ?
予約の取れない店に予約を入れていて、
個室に通され、
メニューは勝手知ったるように頼み……
チーフは上得意様⁉︎
優斗は長野をじっと見つめた。
よくよくみなくても長野の周りには大物しか出しえない、オーラみたいなものがある。
……。
うん。チーフはこの店の上得意様。
ありえるオーラが出てる。
「そんなに不思議がることないって。俺とここのオーナーが知り合いってだけ。しかも今日は特別にしてもらってるから、いつもこうって事はない」
長野は優斗が不思議がってる答えを、全部話してくれた。
「俺、ここぐらいしか店、知らないから…」
少し照れくさそうに長野が笑う。
チーフがこんな笑い方するなんて‼︎
仕事場とのギャップで、なんだか、胸がドキドキする…‼︎
優斗は初めて感じた、胸の高鳴りに戸惑い、胸元を押さえた。
「南田くん、胸なんか押さえて…大丈夫か?」
長野は胸を押さえている優斗の手に、自分の手を重ねた。
‼︎
余計に鼓動が………‼︎
こんな気持ちは多分、チーフと2人っきりだからだ。
優斗は自分にそう言い聞かせて、大きく深呼吸をした。
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