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43.正義3
「最終的には内部での意見の衝突で自滅しおったがな。中には過激すぎる行動についていけなかった連中も大勢おった。そんな連中が裏切ったり密告したりとジリ貧になったせいじゃろうが……普通の学生は現実を見れば我に帰るというものじゃ。何せ若い。将来がある身じゃからの。ふぉふぉふぉ」
悪い顔です。
きっと裏切り者を誘導したのは祖父達でしょう。祖父の事です。見返りをきちんと準備して交渉した事でしょう。今だけの暴走で将来をダメにするか、裏切って豊かな人生を謳歌するか。裏切り者と断じる事は出来ません。彼らにも将来があり、家族もいるでしょうから。沈没する船に乗り続ける訳にはいきません。
「学生共が捕まって刑が執行されたが、問題はココからじゃった。『学生らがああなったのはハミルトン侯爵のせい』という声が日増しに高まったんじゃ。特に市民からの抗議は凄まじかった。王宮を取り囲んでおったからな」
「自分達が支持していたのにですか?」
「民衆の中には警官の息子を持つ親も、警察に捕まって無期懲役を食らった息子を持つ親も大勢おる。規模が規模じゃったからな。王都程ではないにせよ、王都に近ければ近いほどに暴動化した若者がおったのじゃ。しかも、加害者と被害者の親が知り合いというケースも多発してな。被害者側からしたら加害者が昔からの知り合いというケースはより残酷じゃ。それは加害者側からしても同じじゃろうが……。彼らはな、自分達以外の加害者を探した」
「それがハミルトン侯爵と言う訳ですか?」
「そうじゃ。親兄弟からしたら、ハミルトン侯爵に傾倒しなければ起きなかった悲劇という訳じゃ」
「無責任ですね。どう考えても加害者の子供が悪いでしょうに……ここは自らを顧みて被害者側に真摯に向き合うべきところです」
「それが出来んのが人じゃ。それにのぉ、ハミルトン侯爵を邪魔に思う者は政界にも大勢おる」
「利害が一致したのですね」
「何せ、生贄にはもってこいじゃからの。ただのぉ……ハミルトン侯爵のシンパは貴族階級にもおって更にややこしい事になったのじゃ。慈善活動家の夫人や令嬢が中心になってハミルトン侯爵を庇うんじゃ。そうなると、夫人や令嬢の家族や約者がハミルトン侯爵を警戒する。何やら怪しい関係だという噂も出回って、家紋に傷がついたと騒ぎたてる家もおった。まあ、なまじ顔が良い青年じゃったから噂になるのも仕方ない面もあったがな。それにのぉ、罪を問うにしてもどのような罪状を用意するべきかが問題じゃった。何せ、ハミルトン侯爵自身は何もしておらんからな」
「学生達を誘導したのではないのですか?」
「誘導したと言っても証拠がない。儂の見立てではアレは学生共が勝手に暴動したと思っとる。多少の誘導はあったかもしれんが、ハミルトン侯爵も既にコントロールできんかったんじゃろう。何せ、学生に味方する民衆の数まで把握はできんし、学生もピンからキリまでおる。貴族階級に絞る訳にもいかんしな。ハミルトン侯爵としては民衆の声なき声を拾ってより良き政治を目指していたんじゃろうが……そう上手くはいかんわな」
聞いているだけで疲れてきました。
犯罪者にするには罪らしいものはありません。かといってハミルトン侯爵が行動しなければ何もなかった行為でもあります。自己責任と言われて納得できる人もいなかったのでしょう。それを言うにはあまりにも被害が拡大し過ぎています。
「ハミルトン侯爵にはとりあえず屋敷で蟄居を申し渡したが、それで民衆が納得するはずもない。ハミルトン侯爵を罰するには法律から変える必要があった」
「変える事ができたのですか?」
「それよ。法律を変えるのは簡単じゃ」
簡単……この国は何時から独裁国家になったのですか?
「問題は、変えると他の者にも当てはまってしまう事じゃ。これがまた多いのなんの。お陰で時間だけが無駄に過ぎる有り様じゃ」
どうやら、祖父もその中に入っているようです。まぁ、祖父だけではないようですが。
「挙句に、引退した長老方から『由緒正しい侯爵家を市民の声だけで断罪するのも如何なものか』という声が出始めてしまったんじゃ」
もうムチャクチャです。
何故、隠居した方々が出てくるのですか。
「関係ない方々が何故ですか?」
「それは当然、法を変えれば自分達も捕まるかもしれないという恐怖からじゃろうな」
最悪です。
「長老方の横やりも厄介じゃったが、更なる厄介事が起こった。ハミルトン侯爵が一族の者達の手にかかって亡くなったのじゃ。首謀者は分家の当主であった。恐らく、ハミルトン侯爵が罪人となる前に死亡して有耶無耶にしたかったんじゃろう。最初、病死として届け出がだされたからのぉ。まあ、奴らも中々判決が出んことで余計に恐怖が煽られたのじゃろう。民衆もハミルトン侯爵の親族という事で闇討ちをする輩もおったからの。精神的におかしくなっても仕方あるまい。じゃがな、流石に一族のトップを殺して自分が成り代わろうとしたのは見過ごせん。結局、ハミルトン侯爵家は御家騒動という形で自滅しおったがな」
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