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第38話伯爵side
ヴィランが警察に捕まった。
妻と一緒に急いで駆け付けた。
牢屋の中にいる息子は自分が何をしたのか分かっていなかった。
馬の足を射抜く事を平然と言う。
それが悪い事だとも思っていない。
「私達の教育が悪かったのかしら……」
気丈な妻が涙を流しながら弱音を吐く。
違うと言いたい。
だが、言えない。
「もう少しで謹慎が解けるはずだったのに……」
妻の嘆きは止まらない。
その理由も分かる。
妻はヴィランのために奔走していた。
学園を退学になどさせないために色々と動いていた。
その甲斐あって、ヴィランは停学処分になっていたのだ。
あの子も伝えていたはずだ。
『今は大人しくしてろ。そうすれば学園に復帰できる。復帰後は以前よりも周りの態度は冷たいだろうが卒業までの辛抱だ』
息子は私達の言葉に何を聞いていたのだろう。
それとも話自体聞いていなかったのか?
ヘスティア様の馬車を襲った事は紛れもない事実。
それも計画的犯行だ。言い訳など通用しないだろう。牢屋で見たヴィランの格好からしてもそうだ。農民の作業服を着て、顔が分からないように帽子を深く被っていた。誰が見ても計画犯だ。
ヴィラン曰く、「会って話がしたかった」と言う事だが……。
それを信じてくれる者はいないだろう。
公爵家の護衛も地元警察も懐疑的だ。
彼らはヴィランが「ヘスティア様を拉致して性的暴行に及ぼうとしていた」と考えていた。
ヴィランが再びスタンリー公爵家の婿になるために既成事実に及ぼうとした、というのが彼らの見解だった。
即座に「違う」と言いたかった。
だが、ヴィランが持っていた鞄の中から紐やナイフが出てきた。「スタンリー公爵令嬢を脅そうともしていたのでは?」とまで言われた。状況証拠は揃い過ぎていた。
ヴィランに不利過ぎた。
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