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雪の中に埋もれたままに。
あの人との思い出が薄れることなく凍って欲しい。
私は昨日、主人を交通事故で亡くした。
2月の朝早く。この冬一番の寒気が日本全土を覆っていた。
この日、主人はいつもより早く家を出た。
道路が凍っていて歩きづらいから、電車に乗り遅れないように早く出ると。
いつもと出る時間が違ったせいかどうかわからない。
でも、急スリップした乗用車が、駅に向かう夫を跳ねた。
私が駆けつけた時には、救急隊による心臓マッサージの最中だった。
雪の中に鮮血があった。
助からない。
頭の中が真っ白だった。
そして搬送先の病院で夜が訪れる。
両手で顔を覆う。何度も何度も涙が込み上げてくる。嗚咽。
気がつけば寝ていたのだろうか。
目覚まし時計の鳴る音。
目を開くと、ベッドの中に夫の顔がある。
少し困ったような表情だ。
「おはよう。ずいぶんうなされていたみたいだけど。」
夫は私の頭を撫でながらにこりと微笑む。
夢でよかった。
(終わり)
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