温もりの冷凍

1/1
前へ
/1ページ
次へ
雪の中に埋もれたままに。 あの人との思い出が薄れることなく凍って欲しい。 私は昨日、主人を交通事故で亡くした。 2月の朝早く。この冬一番の寒気が日本全土を覆っていた。 この日、主人はいつもより早く家を出た。 道路が凍っていて歩きづらいから、電車に乗り遅れないように早く出ると。 いつもと出る時間が違ったせいかどうかわからない。 でも、急スリップした乗用車が、駅に向かう夫を跳ねた。 私が駆けつけた時には、救急隊による心臓マッサージの最中だった。 雪の中に鮮血があった。 助からない。 頭の中が真っ白だった。 そして搬送先の病院で夜が訪れる。 両手で顔を覆う。何度も何度も涙が込み上げてくる。嗚咽。 気がつけば寝ていたのだろうか。 目覚まし時計の鳴る音。 目を開くと、ベッドの中に夫の顔がある。 少し困ったような表情だ。 「おはよう。ずいぶんうなされていたみたいだけど。」 夫は私の頭を撫でながらにこりと微笑む。 夢でよかった。 (終わり)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加