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「あの」
心地よい風が吹くような、柔らかい音色が聞こえてきた。隣を見ると、君がいた。
「落としましたよ」
そう言って差し出されたのは僕が前に君に拾わせようとしたハンカチだった。いつの間に落としたんだ。故意ではないのに、僕は急に恥ずかしくなった。一度はこれを拾わせようとした罪悪感からだろうか。
「あの……」
「あ、すみません、ありがとう、ございます……」
君が僕に話しかけているというこの空間が信じられなくて、夢の一部を切り取ったみたいに思えた。僕は君の手からハンカチを取ると君はその声にふさわしい柔らかな笑顔を浮かべた。
「かわいいですね……」
「え、あ、これ?」
僕は渡されたハンカチを強く握る。君は雪のように白い頬を赤く染めて俯いた。
「私も、それと同じの持ってるので……」
「そ、そうなんですか」
君と会話をすることを夢見ていたのに、いざ目の前にすると言葉が口の中にとじ込もってしまうのはどうしてだろう。雪のせいで、口が固まってしまっているのかな、などとバカなことまで考えてしまう。雪のせいではなく、僕に勇気がないだけだ。僕は小さじ一杯にも満たない勇気を振り絞って君に話しかけた。
「あの……」
「は、はい」
その時電車が来た。電車をちらっと見て顔を見合わせながら僕らは同じ電車に乗り込む。
拾ってもらったハンカチをポケットに入れようとすると、手に柔らかい感触があたる。あれ、これはもしかして?
「あ……」
ポケットの中からソレを取り出してみたら、使い慣れた僕のハンカチだった。君の顔を見ると、さっきよりも頬全体を赤く色づかせていた。
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