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ウジェーヌとの出会い
「おお? こんなところでどうした?」
街灯の光から隠れるように立っていると、酒臭い息をした男が近寄ってきた。できるだけ顔を見られないようにショールを深くかぶり、視線を合わせないようにそっぽを向く。
何回か同じように酔った男に絡まれたことがあった。けれどその度に酒場から血相を変えて飛び出してきたレオンが、奇声を発して暴れまわったので、いつの間にか店の前に立っていても誰も声を掛けなくなっていた。
どうしよう……。
黒いショールを握りしめ、ちらりと酒場の中に視線を巡らせる。
レオンはテーブルに突っ伏していた。
あともう数分もすれば店主が外に追い出す頃合いだった。
「客を探してんなら、こんな所に隠れてちゃいけないよな。なんなら俺が買ってやってもいいぞ」
卑猥な笑いを浮かべた男に手を掴まれ、一瞬体を固くする。
どうしよう……。突き飛ばして店の中に入ろうか……。
酒場の店主は優しくて、店の中に入っていいとは言われていたが、お酒を飲んでいるレオンを見ているのが辛くて、いつも入り口の近くに隠れるように立っていたのだ。
その時、誰かの手がふわりと肩に置かれるのを感じた。
「すみません。お待たせしてしまって」
背の高い男だった。
立襟の白いシャツにきちんとタイを結び、ベストとフロックコートをきっちりと身に纏った若い男が、爽やかに微笑む。
「おや、マドモアゼル。この男性はお知り合いですかな?」
そう言って上から見下ろすように酔った男に視線を向ける。優しく微笑んでいるようにみえて、その瞳には強い威圧感のようなものが感じられる。
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