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最初は滝のように勢いよく流れていた鼻血も、今はだいぶ治まってきていた。
ウジェーヌは手近な椅子に腰を掛け、渡された水で顔や手に付いた血を洗いおとす。軽く鼻をかむと、どろりとした血の塊のようなものが出てきて、一瞬どきりとする。
「本当に申し訳ありません」
椿は再び深く頭を下げると、硬く絞ったタオルを差し出した。受け取るとほんの少し暖かく、ウジェーヌはシャツを脱いであらわになった胸板を拭いた。シャツに染みついた血がついていたのか、タオルがほんの少し血で汚れる。
その間にも椿は血で染まった水を綺麗な水へと取り換え戻ってくる。今度は少しお湯を混ぜたのか、絶妙な温度加減だった。
「あの……、よろしければこちらをお召しください。あなたは体が大きいので、これを羽織るように着ていただけたらと……」
渡されたのは、紺の縞模様のローブのような服だった。以前こんな衣装をどこかで見たことがあった。
「……これは、日本の衣装か?」
「はい、着物です。これならあなたでも袖を通すことができると思いますよ」
教えられたとおりに袖を通し、前を合わせ紐で留める。
このころには鼻血はすっかり止まっていた。
椿はウジェーヌの前に温かいお茶を置くと、さっきまで羽織っていたショールを肩にかけてくれた。
もう春だというのに、朝晩はかなり冷え込む。羽織物一枚だけでは少し寒いと感じていたところだった。
恐ろしく気の利く女だと思った。
「よろしければ、そこのソファーで横になって少し休んでください」
お茶を飲み終わったころを見計らい、椿が言った。
血を流しすぎたせいか、体が少しだるかったウジェーヌは、素直にその提案を受けることにした。
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