美味い美味いご馳走

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美味い美味いご馳走

小屋が出来ると、ワラワラと村の大人の男たちが集まって列になって並んだ。 年寄りが先頭で、若い程後ろに並んでいた。 皆手に手に1本柄の長い銛を持って、声を揃えて歌いながら足踏みをしてリズムを取る。  合間に、ザッと砂の地面に銛を突き刺しながら。 そして、トオルの方に向かってくる。 ハッとすると、ジョンも列の中に混じっていて、トオルはいつの間にか一人で突っ立っていた。 歌は腹に響く勇壮な陽気な調子だった。 最初は少しばらつきがあったが、だんだん皆の調子が合っていく。 列の先頭がトオルの前に来ると、一悶着先頭のおっさん達が互いをつつき合って、あんたか?おれか?と、まごついていたが、トバァク酋長が業を煮やしたように一歩前へ出て来て、テキパキとした口調でなにか言って、その後年かさの男達がトオルの腕を取ってさっき作った小屋の中へ連れ込んだ。 椰子の葉でできた小屋の中は、1本の太い木の柱で支えられていて、その柱にはよく見ると何かトーテムと思しきものが素朴に彫られていた。 おっさん達はその柱を囲むように円座になると、皆ニカニカ笑いながらトオルをジロジロ見ていた。 そのうち一人が立ち上がって演説をしだし、それに答えているのかもう一人、二人演説をしだし、またたくまにガヤガヤとトオルにはさっぱり何を言っているかわからない会議が始まった。 トオルは、トバァク酋長の隣に座らされ、ひとしきりおっさん達が演説し終わると、トバァク酋長が、トオルを何度も手で示しながら長々と演説した。 どうやら自分の事を説明しているらしいと見当をつけて、トオルはおっさん達の様子を眺めた。 皆「ホウホウ!」とうなづいている。 小屋の中は蒸し暑いは、おっさん達が何を言ってるのかさっぱりわからないは、トオルは退屈になって眠くなってきた。 カクンと頭が一度垂れた時、突然おっさん達の間から「カヴァ!カヴァ!」と連呼が始まった。 すると、小屋の出入り口からファナおばちゃんが顔を出し、大きな洗面器を突き出してきた。 中には、椰子の実を半分に切って作った柄杓が、泥のような液体に浮いている。 「カヴァ!カヴァ!」おっさん達が相好を崩して、順繰りに柄杓で中の液体をすくってすする。 (ありゃ何だ?)トオルの前にも洗面器が回ってきた。 トバァク酋長が、皆のように飲めと手振りで勧めてくるので、恐る恐る飲んだ。 見た目は泥水のようだがそんなにひどい味がするものでもないので、ホッとした。 トオルがそうすると、おっさん達は笑いながらひざを叩いて喜んだ。 一回、二回…何度か飲むうち、トオルはだんだん気持ちよくだるくなってきた。 おっさん達も無口になる。 こういう場では普通アルコールが出ないか?トオルは思った。 で、皆陽気に酔っ払うものでないか? この泥水は、アルコールみたいなものではないのか??何だこの盛り下がり様は?? 何度目かの洗面器が回ってきた時、いつの間にかすぐ隣にいたジョンが、トオルを止めた。 「そのくらいにしとけ。明日の朝頭痛で死ぬぞ、お前は病み上がりなんだから」 「えっ?!」 トオルが慌てて柄杓を置くと、それが合図だったようにファナおばちゃんが入口から大声でなにか言って、おっさん達が立ち上がった。 つられて立ち上がったトオルに、トバァク酋長が片言の英語でこういった。 「トオル、皆で、ウマイウマイ、食べるか?」 小屋の外に出ると、直ぐ側に、かまどがいくつかと、寄せ集めの調理台ができていて、女たちが老いも若いも集まって賑やかに煮炊きをしていた。 外はすっかり夕暮れで、広場には丸く丸太が並べられていた。 いつもはチビしか見当たらないのに、今日はもっと年上の少年や少女が混じってはしゃいで走り回っている。 ジョンが、いつもは島の外の寄宿学校に通う年齢の子供たちも、今日は歓迎式のために島に戻ってきているんだと教えてくれた。 トオルの歓迎式のため、というより、島のしきたりを伝えるために酋長が呼び寄せたのだそうだ。 にわか造りの炊事場の側に、ビールのケースが重なっている。 その周りには気の早い男達が早く飲みたそうな様子で、うろついていた。 腹をすかせた子供たちが、炊事場に群がっている。 トオルはトバァク酋長とジョンに挟まれるようにして、広場の丸太に腰掛けた。 大きなバナナか何かの葉の上に、ヤムイモや、なにか手料理が彩りよく盛られてトオルの前に並んだ。 それから、歓声が上がって、砂の中で焼けた石と蒸し焼きにされていた子豚の丸焼きが掘り起こされて、それも切り分けられて並んだ。 皆が丸太に座る。 ビールがまわされ、ニカニカ笑いながら皆がトバァク酋長の合図を待っている。 トバァク酋長が、ビール瓶を掲げ、少し演説をしてから座ると、わっとばかり子供も大人も飲み食いし始めた。 トオルは熱々の子豚の肉を手にとって口にした。 久々に、何かを心から美味い、と感じながら、噛み締めた。
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