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子供たち
次の日から、夜が明けるとチビたちがトオルを起こしに来た。
この島の子どもたちはある年齢に達すると島の外にある寄宿学校に進学するか、親を手伝って漁師見習いになる。
チビたちは朝早くから海に飛び込んで、日暮れまで家に帰らない。
腹が減ると海で採れる物で自分で腹を満たす。
呑気なもんだ。
ジョンとチビたちと波打ち際まで歩いて、ジョンは日課の沖にある岩場までさっさと泳ぎに行き、チビたちはトオルを遊びに誘った。
最初はトオルは海にプカプカ浮いているだけだったが、それでは悔しいので段々潜ったりするようになった。
昼頃になると、チビたちが海に散って銘々なにか食べられる獲物を採ってきて、砂浜で火を起こし、串焼きにしたり蒸し焼きにしたりして腹を満たす。
チビたちは気前よくトオルの分まで獲物を持ってきてくれて、トオルはお相伴に預かった。
(こいつらの中で俺ってどんな立ち位置なんだろう?)
疑問に思わないでもないが、チビたちに面倒を見られるままトオルは過ごした。
ある日、波打ち際で腹もくちくなった頃、棒きれを拾って、砂浜にチビたちの似顔絵を描くと、チビたちは目をまん丸くして喜び、そこらに落ちている貝殻や海藻や波に磨かれた小石を飾り付けた。
それがなかなかセンスが良かったので、トオルはもっと絵を描いて、自分も貝殻を拾って絵を飾り立てた。
楽しかった。
笑いながら砂の上に棒切れで絵を描いて、砂浜に打ち上げられた物で飾った。
日が暮れるまでそうやって過ごしたら、チビたちはまた明日もトオルにもっと絵を描いて欲しいと言った。
「また明日」
そう言ってチビたちと別れて寝泊まりしている小屋に帰ると、ジョンがニカニカ笑いながらトオルの精神年齢がチビたちと同じだから気が合うんだとからかった。
砂の上に絵を描くと、たまに波が全部洗い流してしまう。
それが良かった。
何度も描けるから。
トオルも楽しかったが、チビたちはこういう遊び方をしたことがないらしく、自分でも絵を描いたり思い思いに飾り付けたりしてお互いに見せあいっこした。
最初はチビたちの似顔絵だけを描いていたが、チビたちと言葉で意思疎通がなんとなくできるようになると、魚を描いて欲しいとか、イルカや海鳥を描いて欲しいとリクエストが来るようになって、段々トオルの砂絵は複雑になってきた。
たまに大人たちもトオルやチビたちの砂に描いた絵を見に来た。
皆面白がって、自分たちも自分のわかるモチーフを描いたりした。
魚や鳥、漁をして見慣れている物は皆生き生きと描いていた。
そうしながら、トオルに島の言葉を教えてくれた。
チビたちや島の村人とそんな風に交流しているうちに、トオルは片言なら島の言葉が話せるようになっていった。
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