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真駒内駅前のスノーキャンドルが優しい光を灯して、私たちの道を照らしている。私が黙ってスノーキャンドルを見つめていたことを、やりたかったに勝手に脳内変換したらしい。
「来年は一緒に作る?」
先輩は、スノーキャンドルを指さしながら呟く。来年も二人で過ごすことは、確定。先輩がそう思ってくれてることは、嬉しい。
「そうですね」
「子どもとかも、こういうの好きそうだよね」
「そうですね」
心ここにあらずになってしまい、ただ相槌を打つマシーンになってしまってる。冷えてしまった自分の手に、白い息を吹きかけながら、歩みを進める。先輩は立ち止まってスノーキャンドルを撮影していた。
「先輩?」
「名前で呼ばないのかよ」
「先輩なんて、私のこと呼ばないくせに」
唇を尖らして、責めるように言葉にすれば、きょとんとした顔を見せる。私のことを先輩が呼ぶことは、数えるほどしかない。
名前を呼んでもらえるだけで、幸せな気分になれるのに。先輩はいつも、「ねぇ」とか「あのさ」とか、私を呼んでくれない。小さな不満が胸の奥に降り積もる。自分でも知らないうちに、ワガママになってきていたらしい。
先輩が見てくれるだけで嬉しかったし、まさか付き合えるとも最初は思っていなかったのに。いざ付き合いだしたら、もっと、もっと、と私は欲張りになっていく。
「美晴?」
「そうですよ、私美晴っていうんです、知ってました?」
「知ってるに決まってるしょ」
「ふーん?」
その割には呼んでくれないですね、は口に出せなかった。先輩と付き合う前は、素直に好きだの、こっちを見てだの、言えていたのに。どんどん私の言葉は、飲み込まれていく。
やっと付き合えたのに嫌われたくない。ワガママを言いすぎて、振られたくない。
相変わらず先輩への好きは、積もっているのに、一ミリも伝わってる気がしない。
「ほら、地下鉄来ちゃうから」
「地下鉄来ちゃうからって! 十数分に一本来るじゃないですか、ってか、写真撮ってて立ち止まったの先輩ですよ」
「そうだけど、冷えちゃうしさ。ほらいこ」
差し出された右手は、手を繋ごうという誘いだと思っていいのかな。多分違うな、そういうポーズなだけで握りしめたら、きっと顔を赤く染めて引っ込められるだろう。
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