降り頻る雪は愛の証

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 あまりにも、難儀だ。恋人への扱いに慣れていないだろうとは思っていたけど、それにしても度が過ぎる。私たちは、一向に恋人としての絆は深められていないままですよ。手を繋ぐこともない、キスだってしてない! 恋愛的に好きだなって思ったら、ちゅーしてくださいと言った手前私から迫ることもできない。  先輩の手を見なかったふりして、駅に向かえば、先輩が私の右手を掴む。 「繋がないの?」  まさかの提案に、唇が震えた。つい、にやけてしまう。先輩がそうやって言ってくれるだけで、手を繋ぐだけで、私の心はとろとろ溶けちゃうんですよ。気づいてないだろうけど! 「繋ぎます」  ぎゅっと強く握りしめれば、優しく包み返される。二人の体温が混ざり合って、冬だというのにあたたかい。  地下鉄の駅構内に入れば、暖房が効いていて、コートを脱ぎさりたくなった。手を繋いだまま、空いている手でキタカをポケットから取り出す。 「どこに行くんですか」 「大通駅」 「大通駅ですか?」 「うん、そうだよ。キタカ、あるよね。うん、行こう」  繋いだ手は変わらず離されないまま、先輩は迷いなく進んでいく。大通駅に何かあるだろうか、と想像してミュンヘンクリスマス市が頭に浮かんだ。まさか、と否定も同時に。  だって、人混みが嫌いな先輩のことだ。あんなところに行って何が楽しいんだとか、言い出すだろう。私と違って、先輩は人が集まるところが嫌いだし。  ホームで発車を待つ地下鉄に乗り込めば、丁度帰宅の時間なのだろう。イスはまばらに埋まっており、二人で並んでは座れそうになかった。 「座る?」  座ったらこの手を離されてしまう。危機感から首を横に振る。大通駅まで大体二十分くらい。それなら、立っていても全然耐えられる。 「そっか」  そのまま先輩は何も言わずに、ただ、すぅうっと息を吸ったり吐いたりを繰り返す。言いづらいことを言い出す時の先輩の癖。何か私に言わなくちゃいけないことがあるんだろうか。  考えてみても思い当たるのは、就職が決まった、とか?  もしかしたら、遠距離恋愛になるのかもしれない。だから、言い出しづらくて……?  というかそもそも、先輩は私と付き合ってると思ってるんだろうか?  あの円山動物園のデートの日以来、仲を深めるように何度もデートを繰り返した。ほぼ、お家で映画、ゲームとかだったけど。たまに、外に出かけるのは美術館や、写真を撮りに行くくらい。
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