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先輩の右手を掴めば、お揃いの指輪が薬指に輝いている。恋人じゃないと思ってるのに、ペアリング。やっぱり先輩はどこかズレてるけど、そこを含めても愛しい。
「私は、快晴さんが好きですよ」
抱きしめていた手を離して、顔を見つめて言い直す。安堵の表情を浮かべた快晴さんの頬を両手で包み込む。軽くちゅっとキスをすれば、パチパチと瞬きをしたんだろう。まつ毛の動きが私の顔をくすぐる。
「ダメでした……?」
「だ、ダメとかそうじゃなくて」
「私たち恋人なんですよね、だって」
指輪を見せつけるように、快晴さんの前に右手をあげれば、ぐいっと引っ張られて乱暴にキスをされる。歯が当たってちょっと痛かったけど、それでも、快晴さんの思いが伝わって、幸せだ。
「これからも、隣にいてください。ペンギン夫婦になるまで、なってからも」
「次はじゃあ、結婚指輪ですねぇ。私自分で作りたいんですよね」
「調べておきます」
「ごはんはちゃんと食べてくださいね。長生きしてくれないといやです」
「善処します」
もう一度強く抱きしめて、「好き」と耳元で囁く。目の前の赤い耳すらも愛おしい。
パッと体を離せば、恥ずかしくなったのか快晴さんが私の左手を掴んで「行こう」と口にした。周りの人がちらりとこちらを見ているのが横目にわかって、私も頷く。それでも、恥ずかしいよりも嬉しさが優って、繋いだ右手にちゅっと軽くキスをする。
快晴さんの指輪の石が目に入って、私のと色が違うことに気がつく。
「この石、なんですか?」
「アメジスト。美晴の誕生石」
「私のは、じゃあ快晴さんの誕生石?」
「うん、ムーンストーン」
「ずっと一緒にいるみたいでいいですね」
ふふふっと笑って、繋いだ左手の指で快晴さんの指輪をなぞる。嬉しさでおかしくなってしまったみたいだ。降り頻る雪が、まるで幸せそのもので。幸せがこの世界に降り注いでるように見える。
<了>
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