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座敷の鴨居に着物の腰紐を2本つなげ
首吊る母親の姿が目に飛び込んできた。
「!!!!」
泣きはらし幾筋もの涙の跡が頬にある。
よほど苦しかったのか思いっきり『あっかんべー』してるように舌を目一杯突き出し上の歯で舌を噛み切らんばかりに食い込ませた顔。
(苦しそう…)
私の目に涙が溢れる。
「早く、紐を切れ!」と父が怒鳴る。
ガクガクと手が震えるが右手にハサミを持ち左手で支えるが、上手く紐は切れない。
「早くしろ!俺が体を抱えてるから!」
死後硬直が始まってかなり経っていたからだろう、もう母の体は固まっているのでかなり重たいのだろう、早く床に置いてやりたいという思いにかられて私に怒鳴り、早く、早く紐を切るよう急かす。
両手でガクガクと震えながらハサミでやっと紐を切る。
父が母を座敷で寝ていたベッドの上に寝かせた。
私は腰が抜け、尻もちをついたまま、全身がガクガクと震え続ける。
ふと振り返ると弟たちが座敷を覗き込んでこっちをみている。
下の弟が
「ママは?いたの?」と無邪気に尋ねた。
暫くして会社の立ち上げ時から勤務する経理のおばちゃんが来た。
私が赤ちゃんの時から可愛がってくれたおばちゃんは、
「絶対、お母さん助かるから、今、救急車呼んだから!」と私に言ってくれるが、
(虚しい。誰が見たってもう、死んでるじゃない。この人は何嘘をついているの?現実から目を背けてもどうすることも出来ないじゃない…。)
顔を上げ、おばちゃんを直視出来ない。
たかだか11年しか生きていない私にすらこの現状は受け入れなければならないことだと痛烈に感じた。
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