山茶花

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葬式の準備が始まり、あっという間に座敷に祭壇が飾られていく。 知らせを受けた親戚たちが続々と入ってきた。 特に遺書が残ってはいなかったが、過去の日記が置いてあって、そこには自分の生い立ちなどが書かれていたようだ。 母は5人兄姉の末っ子で父は太平洋戦争で戦地へ赴き、無事帰還して出来た子らしいが、戦地での過酷な戦いで体を壊し母がお腹の中にいる時に亡くなったらしい。 女手一つで5人を育てた祖母。38歳で産み育てた娘。その娘が38歳で自ら命を絶った。 祖母の悲しみは図りしれず祭壇の前の棺桶から離れようとしなかった。 その姿を目の当たりにした私は 『親より先に子供が死ぬというのが一番の親不孝なのだ』 と。見せつけられてしまった。 程無く、通夜、翌日葬儀、出棺となり火葬場で骨を拾う。 (人の焼けるニオイ。吐きそう。) そう思いながらも一つ一つ二人一組で長い箸を持ち骨壺に入れていく。 49日の法要を終えお墓に納骨した。 この石の下に母はいれど、魂はここにはいないな。と感じていた。
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