【煩悩滅却したさ過ぎる】

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【煩悩滅却したさ過ぎる】

・ ・【煩悩滅却したさ過ぎる】 ・ 「はぁぁぁぁあああああああああああああいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」  悠馬がふんどし一丁で滝に打たれている。  現在一月二日、今年は暖冬だから滝が凍っていないけども、いつもだったらカッチカチになっていてもおかしくない。  俺は厚手のコートを着ながら、カメラを回している。  悠馬から『俺の煩悩が無くなった瞬間を撮っていてほしい』と言われたからだ。  悠馬は師走からこうやって、時間が空いたら煩悩を滅却するための行動を移している。  この前はまだ赤く光っている炭の上を裸足で歩き、終わったところでカメラの前にやって来て、一言。 「まだまだ全然、彼女のケーキのセロハン舐めちゃいそう」  悠馬の煩悩とは、人のケーキのセロハンについた生クリームも舐めてしまうこと。  俺は別にいいだろと思っているけども、彼女から見たらいやしく見えるらしい。  まあ冷静になって考えると、確かに良い行為ではないが、ここまで煩悩を滅却しようとしても、もう無理なのではと思ってしまう。  人のケーキのセロハンについた生クリームを舐めないために、滝行をしている友達・悠馬。  元々は同じサッカー部内で険悪だった俺と悠馬。  でもあの事件以来、俺の言うことを聞くようになり、そこから徐々に仲が深まっていき、今は一番の友達だ。 「はい!」  そう言って滝から出て行き、池の中を歩いて、こっちへ戻って来た。  さぁ、いよいよ煩悩滅却できたかなと思っていると、悠馬はデカい声でこう言った。 「全然セロハン舐めたいわぁぁあああ!」  寒いから大きな声を叫んでいるのだろう、それ以降もずっと「セロハン舐め! セロハン舐め!」と叫んでいる。  俺は悠馬が叫びながら体を拭いているところをじっとカメラに記録していた。  結局今日も悠馬の煩悩が滅却することはなかった。  いや、待てよ、もしかしたら実は滅却していて、そのことに自分で気付いていないだけかもしれない。  そう思って俺は、悠馬へ、 「ちょっとケーキ屋に入ろう」  と誘って、一緒に入店して、そこで俺はケーキを選んで、イートインスペースに座った。  すると悠馬が、 「セロハン」  と言って手を出してきたので、俺はその手にセロハンを乗せると、一気に手が引っ込み、すごい勢いでベロンと舐めた。  ダメだった。  全然ダメだった。  悠馬との煩悩滅却旅はまだまだ続くらしい。
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