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【雪】
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・【雪】
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ふと窓を見ると、雪が降ってきていたので、
「雪」
とつい呟いてしまうと、一緒にこたつの中で座ってテレビを観ている悠馬がこう言った。
「もう、滝行できないのかもな」
「この時期に滝行していた今日の午前中が異常だっただけだよ」
そう思いつつ、今日あった出来事を反芻する。
悠馬は彼女から、自分の分以外のケーキのセロハンを舐めることを止めてほしく思っていて、悠馬をそれをやめるため、つまり煩悩を滅却するため滝行していたのだが、結局実を結ばず。
さらには悠馬は俺(友達)と一緒に年末年始を過ごすことを優先したため、別れてほしいというメッセージが来ていた。
というか、
「結局悠馬、彼女と別れたの?」
「そうだよ。あのあと陽介がトイレ行ってる時に『じゃあ別れよう』と返信して別れたことになってる、おれはね」
「おれはね……って、なんだよ」
「いやそのあとアイツからメッセージがきて『やっぱり別れないで』ってやってきて」
「もうアイツ呼びになったんなら、もう無理か」
「ハッキリ言ってキモいね」
そう溜息をついた悠馬。
いやでも、
「さっきまで彼女だった相手をキモいと切り捨てるのは、ちょっと薄情なんじゃないか? その場に居なくても礼儀はあったほうがいいと思うよ」
するとハッとした表情になった悠馬は俺の瞳を見ながらこう言った。
「やっぱり陽介は良いヤツだよ! というかずっと陽介と一緒に居て良かったよ!」
「こっちを開眼すな。彼女への謝罪を述べろよ、まず」
「だって別にいないしぃ」
そう言ってスマホをチラリと見た悠馬。
「スマホ、何か気になってんのか?」
と俺が聞くと、悠馬は後ろ頭をポリポリ掻きながら、
「何か返信したほうがいいのかなぁ、と思ってさ」
「じゃあ正式に別れましょうと断りを入れればいいじゃん」
「薄情じゃない? それこそ」
「いやハッキリ言ったほうがいいと思うよ。なぁなぁでまた来られても困るわけじゃん、悠馬的にも」
「そりゃそうだけどさぁ、何かこういうの、もうブロックでいいかな、なんてっ」
俺はちょっと斜め上の方向を見てから、
「まあ悠馬がそうしたいならそれでいいけども、俺だったらちゃんと断って、サヨナラするかな」
すると悠馬はスマホを熱心にイジリ出した。
俺はそれを黙って見ていた。
数分後、悠馬はスマホを切って、ポケットの中に入れながら、
「ちゃんと決着付けたよ、納得もしてくれたみたいだ」
「俺の言うこと聞いたんだ」
「だっておれも陽介みたいになりたいし」
「何それ」
「別にっ!」
そう言って笑った悠馬。
むしろ俺も悠馬みたいになりたいけどな、俺が良くないイジられしていた時にクラスメイトたちにハッキリ言ってくれた悠馬みたいに、とは言わないけども。
いや、たまにはしっかり口にしたほうがいいかもしれないな。
「あのさ、俺はむしろ悠馬みたいになりたいよ。俺が『大金持ちだ大金持ちだ』って良くないイジられしていた時にクラスメイトたちにハッキリ言ってくれた悠馬みたいにさ」
「あー、あれね、あれこそおれが陽介みたいになりたいから出た言葉だよ」
「どういうことだよ」
「だって陽介はおれのケガを知って、無理するなっていっぱい言ってくれたじゃん」
「いやもしかしたらこれからするかもしれない大ケガとソレは……」
「一緒だよ、むしろ精神的なことのほうが辛いと思うよ、おれは。まあおれは精神的なことで興奮するほうだけどさ」
「俺の真面目な話をクソの性癖に混ぜるの止めろよ」
と俺が語気強めにツッコむと、
「それそれー!」
と両手で指差しながら笑った悠馬。
まあいいか、急に深い話してもしょうがないもんな、と思っていると、急に悠馬が、
「窓開けてさ、雪食べない?」
「いやちっちゃい子供の発想過ぎるんだよな」
「龍も見てくれるかもしれないしさ」
「見せたくないわ、別に。雪食べている高校生を見たくもないだろ、龍は」
「でもっ」
そう言って少し黙った悠馬。
何だろうと思って、待っていると、悠馬が口を開いて、
「雪って何であんな美味しいんだろうなっ」
「いやちっちゃい子供の感性過ぎるんだよ、別に美味しくないだろ。雪って何で白いか知ってるか? あれは空気中の埃を含んでいるからだぞ?」
「えっ? それを早く言えよ! 物知りなんだから!」
「悠馬が雪食ってるとは思っていなかったよ、彼女いる高校生が雪食うなよ」
「もういないんだよ! だからずっと一緒!」
「いつかまたできるだろ、悠馬は覇気があるから」
「いやぁ、やっぱ陽介と一緒に居るほうがずっと楽しいからさぁ、おれ、陽介と一緒にずっと地球に居るわぁ」
「年越しジャンプも、もうしないんだっ」
俺とずっと一緒に居るって、何か気恥ずかしいことバンバン言うな、悠馬は。
何で悠馬から言うのはアリで、俺のヤツは茶化されるんだ。
いいや、茶化されっぱなしで居られるか。
「俺も悠馬と一緒だと楽しいからそれでいいけどな」
すると悠馬がすぐさま口角を上げて、
「おれのこと好き過ぎ!」
と言ってサムズアップしてきた。
この雰囲気なら。
今まで騙し騙ししてきたけども。
ハッキリ言えるかもしれない。
そう思って俺は言うことにした。
「でもさ、俺も悠馬と同じレギュラー組に入れていたのに、悠馬と一緒にサッカー部辞めてきたこと、やっぱり重いかな?」
すると悠馬は快活に笑ってから、こう言った。
「重過ぎるよ! おれに気を遣って、おれを結果的に辞めさせることになったからって自分も辞めるってさ! でも大丈夫! その重過ぎるクソデカ金塊はおれが全部受け止めて、おれのモノにしてやるから! なんせ陽介金塊はもっと価値が上がるからな!」
「何だよ、急に俺を金の塊扱いすんなよ」
「そんくらいおれにとっては価値のある存在ってことだよ! おれのこと好き過ぎさんよぉ!」
「悠馬のほうがだろ、俺のことが好き過ぎさんってのはさ」
と言いながら、俺もサムズアップで返しておいた。
出会いは最悪だっけども、今は最高の友達で。
やっぱり言いたいことを言うって大切なのかもしれないな。
これからも悠馬とはしょうもないことから大切なことまで、いっぱい喋っていたい。
だって楽しいだけで別に良くね? って感じだから。
(了)
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