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【年賀状どうしよう】
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・【年賀状どうしよう】
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大晦日、悠馬を俺の家に招き入れて、桃鉄をしている時にふと悠馬がこう言った。
「陽介への年賀状どうしよう」
「一緒に年越しすんのに? 要らないわ」
すると悠馬は少し不満そうに、
「いや前半は書いてきたんだけどさ、二の句が出ないんだよ」
「そんな緊張の場面なのかよ、いいよ、そのまま渡さなくて」
「持って来てはいる」
「じゃあ持って来ているんだったら、もう俺受け取るよ」
悠馬は首を横に振って、
「まだ完成してないんだよ!」
と声を荒らげた。
いや、
「ちっちゃい子供の癇癪か、全然良いよ、気持ちだけで十分嬉しい大人だから、俺は」
「おれが満足いっていないんだよ!」
「ちっちゃい子供の癇癪過ぎるんだよな、じゃあどこまで書いたんだよ」
「陽介ってネタバレOK派?」
「普段はあんまりダメだけども、悠馬の年賀状なら全然大丈夫」
すると悠馬はムッと口を尖らせて、
「そういうのは差別だと思うっ」
「区別だよ。分別できる大人なんだよ」
「と言ってもまだ高校生じゃん! おれら!」
「選挙の練習も今やってるじゃん、そろそろ大人なんだよ」
「じゃあまだ子供だ!」
「ちっちゃい子供の癇癪が止まらないんだよな、じゃあ待つよ、俺は悠馬の年賀状待つから、完成したら投函してくれ」
悠馬は小声でポツリと、
「せっかく持ってきたのに……」
と言って肩を落とした。
「じゃあさ、陽介の年賀状、俺読みたいから見せてよ」
と言うことにすると、悠馬はパァっと目を輝かせて、
「仕方ないな!」
と叫びながら年賀状を俺に手渡してきた。
諸々合わせて、ちっちゃい子供のパワフル癇癪なんだよな、と思いつつ受け取るとそこには、裏面いっぱいに謹賀新年と書いてあった。
しかも、デカい一発じゃなくて、謹賀新年という文字をびっしり書いてある感じ。
いや、
「もう他に書くスペース無いじゃん」
「だからどうしようかなと思って」
「というか何この神経質な年賀状、いいよ、もう完成でいいよ」
「美的感覚的にさぁ」
「びっしり謹賀新年と書いてある時点でもう美的感覚とかは考えなくていいよ」
悠馬はまたちょっと納得いっていない顔をして、
「考慮させろよぉ……」
と言って溜息をついた。
じゃあ、
「辰年要素が無いからさ、この文字の上から色鉛筆で龍の画を描けばいいんじゃないかな? 色鉛筆なら文字も消えないし」
すると悠馬はニヤニヤし始めて、なんなんだと思っていると、
「龍の画って陽介、オマエはホント龍が大好きなお子ちゃまだな!」
「そういうことじゃないわ、干支だから」
「だからおれと一緒!」
そう言ってバンザイした悠馬に俺は吹き出してしまった。
まあ俺と悠馬はまだまだ子供か。
悠馬に関しては人生を左右するようなケガも表立ってしまったし、俺は俺で周りから良くないイジられをして塞ぎ込んでしまったこともあって、濃密な一年だったけども、まだまだ俺も悠馬も未熟なんだろうな。
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